気候変動問題の生保への影響-アメリカのアクチュアリー会の議論を参考に

2023年08月01日

(篠原 拓也) 保険計理

3開示は効果的に行う必要がある
開示のために、こうすべきといった画一的な方法は存在しない。しかし、効果的な開示に努める必要がある。効果的な開示には、次のような特徴がある。
生命保険の効果的な開示の例として、IPCCなどの複数の気候変動シナリオの下で、聞き手に関連性のある、有意義な変数を用いて定義された"猛暑の確率"を示すことが考えられる。これは、損保関連で言うと、地球の気温が2度、3度、4度上昇した場合の「ハリケーン・カトリーナ」タイプの自然災害の発生確率の開示に類似したものと言える。8

また、気候リスクに関連する不確実性を踏まえると、「現在の状況」 に応じてメッセージを調整することの必要性が正当化されるかもしれない。なお、いかなる開示にも完全なものはない。継続的に批判と精査の対象となる可能性がある。

また、気候変動リスクのすべてを、生命保険のリスクのモデリングで対処することは現実的ではない。どこまでを外部のモデルからの結果の外挿、どこから先を生命保険のモデルで対処するかといった線引きが必要となる。その際、生命保険モデルで対処すると、リスク間の相殺を組み込みやすくなる、といった点についても検討することが必要となろう。
 
8 健康には、気温のみならず、湿度や降水等の要素が影響するとみられる。このため生命保険の場合、気温が2度、3度、4度上昇した場合といった気温上昇の程度を違えるだけでなく、様々な要素を織り込んでシナリオを設定することが考えられる。

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

本稿では、気候変動リスクのモデリングについて、アメリカのアクチュアリー会での議論を中心に見ていった。気候変動問題は、数十年、数百年といった超長期の時間軸に渡る問題である。通常、超長期のモデルから得られる結果には、大きな変動性が含まれる。そうした変動性をどう取り扱うか、技術的な検討要素も多い。

また、気候変動リスクと死亡率や罹患率などを結ぶ経路には、多くの要因が含まれており、とても複雑である。結果をどう解釈し、どう伝えるかといった問題も多くの検討を要するだろう。

引き続き、気候変動リスクのモデリングを巡る国内外の動向を注視していくこととしたい。

(参考文献)
 
「金融機関のための気候変動リスク管理」藤井健司著(中央経済社, 2020年)
 
"Climate Risk Analysis for Life and Health Insurance Companies"
Written by Didier Serre, FSA, MSc (June 2022)
Copyright © 2022 by the Society of Actuaries Research Institute. All rights reserved.
https://www.soa.org/resources/research-reports/2022/climate-risk-analysis-life-health/
On March 31, 2022, the SOA Research Institute assembled an expert panel to discuss key considerations related to climate risk analysis applied to life and health insurance companies. The panelists were selected to represent a wide and diverse array of opinions, and were encouraged to contribute from their own, individual perspective working in areas such as insurance, reinsurance, state regulation, consultancy, meteorology, and climate finance. A summary of the main discussion points is presented in this report.
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)