6|指数をどのように算定するか?―参照期間中の平均からの乖離度として算定する
気候指数の作成にあたり、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の同じ月(季節)の平均と標準偏差を求めておく。(以下、季節の指数については、適宜、「月」を「季節」と読み替えていただきたい。)
ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。
乖離度が標準正規分布に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。このようにして、気候に関する極端さの度合いが、定量化される。この乖離度を、7つの項目それぞれで計算する。
7|閾値をどのように設定するか?―90%とする
北米、オーストラリアの先行の指数では、高温、低温、強風 (北米は降水も)の各項目について、参照期間のデータをもとに、閾(しきい)値を設定している。閾値の水準の設定は、どの程度の極端な気象を指数に反映させるか、を決定するものとなる。
具体的な水準として、北米のように90%とする、オーストラリアのように99%とする、またはそれ以外の値とするなど、さまざまな設定が考えられる。ただ、今回はデータが少ないため、99%などの高水準に設定すると、極端な気象の指数反映が厳しくなり、指数の変動が大きくなることが予想される。このため、北米と同様に、90%に閾値を設定することとする。
8|7つの項目について、指数を作成する
以下では、ポイントを絞って、項目別に、作成方法を概観していく。いずれも、極端さの度合いを示すものとして、乖離度を用いるという方針が貫かれている。
(1) 高温は、上側10%に入る日の割合から算出
高温は、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。例えば、ある年の4月6日については、1971年から2000年までの4月6日とその前後5日間(4月1~5日および7~11日)の、合計330日分のデータのうち、33番目に高いデータが閾値(しきいち)となる。この閾値以上の日が何日あったか、をみることとなる。
気温は、1日のうちにも変動するため、日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の指数とする。
(2) 低温は、下側10%に入る日の割合から算出
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の指数とする。
(3) 降水は、5日間の降水量の最大値から算出
降水は、月のうち、連続する5日間の降水量をみる。高温と同様に、参照期間中の降水量の上側10%の中に入る日が、その月にどれだけあるかという割合でみていく。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、降水の指数とする。
(4) 乾燥は、乾燥日が連続する日数から算出
乾燥の指数は、連続乾燥日から算出する。すなわち、乾燥日が何日続くかという、最大連続日数についてデータをとる。その際、乾燥日をどのように判定するかが検討ポイントとなる。降水量が0ミリメートルでも、わずかながら降水が見られる場合と、まったく降水が見られない場合があるためだ。
これについては、気象データにおいて観測単位(降水量0.5ミリメートル)未満で、降水の現象の有無の観測をした結果として表示されている「現象なし情報」を用いて判定する
31。
参照期間中の同月の乾燥日の最大連続日数をもとに、その月の参照期間からの乖離度が計算される。これを、乾燥の指数とする。
31 現象なし情報は、降水の現象があった日は1、なかった日は0の値で表示されている。
(5) 風は、上側10%に入る日の割合から算出
風は、参照期間中の日平均風速の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、風の指数とする。
(6) 湿度は、上側10%に入る日の割合から算出
湿度は、参照期間中の日平均相対湿度の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、湿度の指数とする。
(7) 海面水位は、参照期間中の同じ月のデータから算出
海面水位は、月平均潮位から算出する。ただし、季節によって海面水位の高さは変わる。そこで、参照期間中の同月の30個のデータをもとに、参照期間の平均や標準偏差を計算する。それらをもとに、その月の平均潮位の参照期間からの乖離度が計算される。これを、海面水位の指数とする。
9|合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4つの指数の平均とする
最後に、以上で算出された7項目の指数をもとに、合成指数を算出する。
7項目の指数のうち、高温と低温はともに気温についての項目であり、相互に関連があるものと考えられる。また、降水と乾燥は、反対の事象を表す項目と言えるため、負の相関があるものとみられる。さらに、風については、観測方法がよく変更されており、データが空欄となっていた日数も多いなど、データの一貫性に難があるという課題も残っている。
32
このため、今回は、低温、乾燥、風は合成指数の計算には用いず、高温、降水、湿度、海面水位の4項目の平均として合成指数を算出することとした。
以上の諸検討点について、北米、オーストラリアの気候指数と、今回の日本版指数の、主な相違点をまとめておく。今回の日本版指数は、ACIとAACIの計算で用いられている方法を部分的に採用して、計算することとなる。