日銀短観(6月調査)~景況感は幅広く改善、設備投資も堅調、価格転嫁の鎮静化はまだ

2023年07月03日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 6月短観では、製造業における景況感の底入れが確認された。大企業製造業では自動車領域での供給制約緩和や原材料高の一服などを受けて、7四半期ぶりに景況感が改善した。また、大企業非製造業では、新型コロナウイルス感染症の5類への移行等に伴うサービス需要の持ち直しやインバウンド需要の回復を受けて、5四半期連続で景況感が改善している。
     
  2. 先行きの景況感は製造業と非製造業で方向感が分かれた。製造業では海外経済への警戒感が重荷になったものの、自動車の挽回生産や半導体市場の底入れ、原材料価格の下落に対する期待が上回ったと考えられる。一方、非製造業では、物価高に伴う国内消費の下振れや人手不足の深刻化などへの警戒感が根強いとみられ、先行きに対して慎重な見方が優勢となった。
     
  3. 2023年度の設備投資計画(全規模)は、前年比11.8%増と大きく上方修正された。上方修正幅は例年をやや上回り、6月調査時点での伸び率としても昨年度に次ぐ過去2番目の高水準となっている。例年6月調査では年度計画が固まってきて投資額が上乗せされる傾向が強い。また、資材価格や人件費の上昇に伴う投資額の上振れが押し上げに働いた可能性もある。ただし、投資余力の改善、経済活動の再開、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築など設備投資の追い風は多く、実態としても堅調な投資意欲を反映していると言えるだろう。
     
  4. 注目された販売価格判断DI(大企業)については、足元で販売価格への転嫁の勢いはやや和らいでいる。ただし、仕入価格と比べて販売価格の鈍化ペースは鈍い。これまで価格転嫁が遅れぎみであったことから、マージン(採算)回復に向けた動きが続いているとみられる。先行きも製造業では仕入れ価格ほど販売価格の上昇圧力が鈍化しない想定となっている。なお、企業の物価見通し(全規模)はやや下振れしたが、それぞれ(1年後・3年後・5年後とも)物価目標である2%を上回った状況が続いており、企業の価格・賃金設定への影響が注目される。

 

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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