1ドル140円が再び視野に、円安がぶり返したワケ~マーケット・カルテ6月号

2023年05月22日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月月初に136円台後半でスタートしたドル円は、米金融システム不安への警戒や5月FOMCを受けた利上げ打ち止め観測、米物価上昇率の鈍化などを受けて、月の半ばにかけてたびたび1ドル135円を割り込んだ。しかし、以降は円安基調となり、18日には一時138円台後半に到達、足元も138円弱と約5カ月ぶりの円安水準にある。

最近円安が進んだのは円安材料が重なったためだ。まず、米国で景気の底堅さやインフレの根強さをうかがわせる指標が続き、FRB高官のタカ派発言も相次いだことで利上げ継続観測が台頭した。一方、植田新総裁のハト派姿勢が市場に浸透したことで、日米金融政策の差が意識されたことが円安ドル高を促した。また、日本経済への回復期待などから日本株が急上昇したことで、リスク選好的な円売りも入った。米金融システム不安や債務上限問題への警戒は燻るものの、これらが危機的状況に陥ることは市場の中心的なシナリオとはなっていない。

FRBは6月以降、利上げを停止すると予想しているが、当面は利上げ観測が燻り続け、ドルは堅調な推移が見込まれる。ただし、夏場には既往の利上げ効果と貸出減少による米景気減速と米物価上昇率のさらなる鈍化が確認され、利上げ観測の鎮静化に伴ってドル安圧力が高まってくるだろう。また、日銀が副作用是正のために7月にもYCCの修正を実施すると見込まれることも円高材料になる。3か月後の水準は134円前後と予想している。

1ユーロ150円台でスタートした今月のユーロ円は、足元で149円弱とやや弱含んでいる。米金融システム不安が高まった場面でリスクオフの円買いユーロ売りが一旦入ったが、その後ユーロが持ち直した。ECBの利上げがFRBよりも長引くと予想されることは当面ユーロの支えになるが、大方織り込み済みとみられる。むしろ、7月以降にはECBの利上げ打ち止めや日銀の政策修正によって、ユーロ安が進むだろう。3ヵ月後の水準は147円付近と見込んでいる。

日銀の緩和修正観測が後退したことで、今月の長期金利は0.4%付近での推移が続いており、足元も0.3%台後半にある。ただし、既述の通り、日銀は7月にもYCCの修正(長期金利操作目標年限の短期化)を実施すると見込まれるため、以降の長期金利の水準は0.6~0.7%台に上昇すると予想している。
 
(執筆時点:2023/5/22)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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