アプリストアの手数料・課金方法については法令・指針には特段の記載がされていない。ただし、アプリストア利用に係る手数料や制限はアプリストアにおける中心的な提供条件にかかわるものであり、法の言うDPF提供者と利用事業者の相互理解の核になるものと言えるだろう。
ところで欧米では(1)アプリで利用するデジタルコンテンツのアプリ内での販売にあたっては、アプリストア提供者による決済手段を利用することを義務化しており、そしてその際に原則として30%と比較的高額ともいえる手数料を徴収すること(=
アプリ内決済手段の限定)、および(2)アプリストア外(たとえばゲーム会社のHP)でのコンテンツ購入への誘導(アウトリンク)をアプリで行うことを禁止すること(=
アンチステアリング条項)が競争法との関係で問題視されてきた。これらのことから日本のモニタリング会合でも重要な課題として議論されたものである。
ここでAppleとGoogleのアプリ内決済手段の限定とアンチステアリング条項の強制について、経産省から行った質問への回答を要約して紹介する。まず、Appleは、イ)アプリ内で徴収する手数料はそもそも決済処理手数料ではなく、より広い意味で、AppleがApp Storeを運営することに対する対価を得るための手段である。その中にはAppleがデベロッパーに提供するツールの開発コスト、知的財産利用なども対価のうちに含まれる。ロ)Appleの手数料は常にデジタルコンテンツの販売についてのみ請求してきたが、購入されるデジタルアイテムは主にデバイス(iPhone等)上で体験されるものであり、デバイス上でのユーザーの体験に非常に大きな影響を及ぼす。ハ)デジタルコンテンツには30%の手数料を課しているが、2年目以降のサブスクリプションには15%としている。二)アウトリンク(アプリストア外でのコンテンツ購入)については、Appleは支払の安全性、消費者のプライバシーを保護することはできないため制限しているというものである
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次にGoogleであるが、i)アプリ内手数料はAndroidとGoogle Playが提供している価値を反映しており、OSやアプリストアの開発、公開及びマーケティングにもコストが必要である。ii)Google Play上でアプリを配信しており、アプリを有料で提供したり、デジタル商品やサービスのアプリ内購入を提供したりすることを選択したデベロッパーに対してGoogle Playの課金システムを利用することを義務付けている。iii)Googleは登録手数料のほか30%の手数料を徴収するが、12カ月を超えて継続されている定期購入に対して15%のサービス手数料を導入するなどいくつかの段階的な手数料水準を設定している。iv)アウトリンクの禁止とされているのは、アプリ内において代替的なオンライン支払とオプションに誘導するウェブページのリンクを張ることができないということにとどまる(=アプリ外での誘導は禁止されない)。なお、上記ii)に関して、GoogleはUser Choice Billingパイロットプログラムを試験的に導入している。これはアプリのデベロッパーがアプリ内課金についてGoogleによる課金システム以外の支払方法を利用できるようにしたものである
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これらに対して透明性評価は批判的である。GoogleのUser Choice Billingパイロットプログラムは好意的に評価したものの、原則30%という手数料について競争が十分に働いていると認めるのが難しいとし、また、手数料支払の有無により利用事業者とAppleの間で公正な競争が歪められないか、15%ないし30%の手数料が科されるアプリと課されないアプリ(=デジタルコンテンツの購入が行われないアプリは手数料もない)との区別は合理的なのかといった疑問も指摘している。これらの疑問から、DPF提供者に対して、アプリストアの運営に係る費用と手数料との関係性や費用負担の在り方について詳しく説明すること、利用事業者からなる団体等と協議を進めること等、利用事業者との相互理解に向けて取り組んでいくことを期待するとし、また、決済手段に関するルール変更については実際に利用事業者に利用されるようになることが重要であり、利用事業者からの評価も含め、今後の動向を注視していくとの評価を行っている
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ところで、アプリ内決済手段の限定とアンチステアリング条項の2点に関してEUのデジタル市場法(Digital Market Act、DMA)は、明確な判断を示している。(1)アプリ内課金システムの利用強制は禁止されており(DMA5条7項)、(2)アウトリンク、具体的にはアプリストア外での取引を容認するとともに、コンテンツをアプリ内で利用できるようにすることを認めなければならないとするところまで踏み込んでいる(DMA5条4項、5項)。
そうすると問題は、日本におけるような利用事業者との相互理解というソフトな対応策だけでよいのか、ということである。筆者の現段階の意見としては、DPF提供者がアプリストア運営のために料金を徴収することには合理性がないとは言い切れないことから、EUのように割り切ることにはいまだ躊躇を覚える。EUでのDMAの本格適用はこれからであり、本格適用までには紆余曲折があると想定される。そのため、EUでのアプリストアに関する議論状況も参考にしつつ、日本における対応を考えざるを得ないと考える。