不動産は、2008年の世界金融危機のように、高い価格水準で売り出したが買い手がつかず、売り主が資金繰りに困り投げ売りをはじめると、市場が崩壊して不動産価格が下落する。最近の国内取引では、売り出される不動産が少ないために取得競争による価格上昇が著しく、期待利回りの急速な低下から利益を見込めずに、物件取得入札に打ち勝つ高い水準の金額を提示できない投資家が多いようだ。
しかし、現在は、物価上昇への対策として米国連銀が政策金利を急速に引き上げており、その影響で長期金利も上昇し、金利上昇による不動産の価格下落リスクを意識せざるを得ない状況にある。一方で、不動産にはインフレに強いという期待もあるため、投資家の投資意欲が高まり、価格が上昇するかもしれないという複雑な投資環境である。こうした状況では、機関投資家などが不動産投資を控えたとしても、新たな投資家が登場すれば、不動産市場は高い価格水準を維持できるかもしれない。筆者は、こうした新たな投資家として期待できるのは、コロナ禍で資産を増加させた超富裕層ではないだろうかと考えている。
米国の調査会社のアルトラータによると、資産額が3,000万ドル(約40億円)以上の超富裕層は、2022年上半期には、全世界に約39.2万人(2021年末比▲6%、2019年末比約+9%)、保有資産は41兆8,240億ドル
2(約5,480兆円)となった。国籍別では米国が約12.1万人・保有資産額13兆4,040億ドルと最も多く、次いで中国が約5.1万人・5兆6,060億ドル、ドイツが約2.0万人・2兆2,260億ドル、日本が1.7万人・1兆4,120億ドルと推定され、ほとんどが外国資本である。
同社によると、超富裕層の資産配分は3割以上が現金等の流動性資産と推定されている。現金等はインフレに弱い資産であり、インフレの進む現在の経済情勢から他の資産に配分される可能性があると考える。
2 2019年は35兆4,240億ドルとの推計値が公表されているが、推計モデルの改訂により2022年上半期の公表値とそれ以前の公表値とは連続性がない。一応2022年上半期は2019年比+18%と計算できるものの、改定後のモデルでは推計値が以前のモデルより増加しており、資産額の伸びはこれよりも少ないと推定される。