1では、高齢者の外出困難がコロナ禍で深刻化し、健康二次被害を起こしている状況について説明した。今後、この状態をどのように打開していくかについて、本座談会のディスカッションから得られたインプリケーションを整理したい。
アイシンのAIオンデマンド乗合タクシー「チョイソコ」は、全国50か所以上で運行されているが、そのうち最初に運行が始まった愛知県豊明市のコロナ禍の利用状況についてみていきたい。「令和4年度第1回豊明市地域公共交通会議」配布資料によると、同市におけるチョイソコの利用回数は、2019年度は約10,000回、2020年度は約8,700回、2021年度は約9,500回となっており、コロナ禍直後の落ち込みは2022年度に入って回復してきていると言える。
そこで、どのように利用されているのかをみると、「利用回数の目的別内訳」では「買い物」(41%)、「医療」(37%)の他に、「文化」と「運動」が計22%を占めている。買い物や医療といった、日常生活上、必要不可欠な移動だけではなく、文化・運動というような、生活の質を上げるための移動が2割あることで、利用を底上げしていると言える。これまでにも述べてきたように、チョイソコでは、運行エリアで「文化」「運動」に相当するようなイベントが積極的に開かれており、それが利用回復、外出回復の一助となっていると推察できる。
そこで次に、チョイソコのイベントの特徴をみていきたい。加藤氏が発表したように、チョイソコを運行するエリアでは、アイシンが地元自治体や、停留所を置く地元スポンサーと連携してイベントを開いたり、アイシンと協業する企業がイベントを開いたりと、多彩な枠組みで高齢者向けのイベントが開催されている。
その中でも、アイシンが最近、開発に力を入れているというのが、特典付きのイベントである。例えば岐阜県各務原市では、高齢者がチョイソコを利用してハーブ園へ行き、ハーブ摘み作業を行うと、施設内の温浴施設の無料券をもらえるという取組が紹介された。チョイソコ利用料はかかるものの(各務原市の場合は往復600円)、仲間と一緒に収穫作業で体を動かし、その後、温浴施設も楽しめることが、インセンティブになっていると考えられる。チョイソコではほかにも、ミニトマト摘みやブルーベリーの収穫など、農作業を体験すると、何らかの特典を得られるような企画がある。アイシンは、人手不足の産業に呼びかけて、このように高齢者が生産活動に貢献できる場を積極的に開拓しているという。
チョイソコに限らず、国内で乗合タクシーを導入しているエリアには、農村部も多い。農作業の収穫作業に特典をつけて、楽しい体験イベントとして企画することで、地域の高齢者に乗合タクシーに乗って参加してもらえるなら、農家側にも参加者側にもメリットが生まれる仕組みにできるのではないだろうか。
また、加藤氏から紹介されたチョイソコの外出機会の中でもう一つ注目されたのが、介護予防のプロジェクトである。昨年度、埼玉県入間市で行った3か月間の実証実験では、イチゴ狩りやミニゴルフ大会など外出促進イベントをたくさん用意し、実証実験参加者の健康状態の変化を調べたところ、チョイソコを利用して積極的に外出し、外出先でもしっかり体を動かした参加者は、健康状態を示す値が上昇したというものである。高齢者に対して、移動手段と移動目的をセットで提供することの有用性と重要性を示している。
このように健康増進効果の裏付けを示すことができれば、健康に関心の高い高齢者に対し、外出のインセンティブにもなり得る。コロナ禍で、「地域の高齢者の基本チェックリストの値が悪化した」、「閉じこもり、うつになった高齢者が報告されている」という自治体は、全国にあるだろう。今後の対策の候補として、「移動手段と移動目的をセットで提供する」ことを検討してもらえると良いのではないだろうか。
3――社会参加のポイント