■要旨
2022年11月、EU規則であるDigital Services Act(デジタルサービス法、DSA)が施行された。DSAはデジタルプラットフォーム提供者などネット上のオンライン仲介サービス提供者において、違法なコンテンツ(illegal contents)が掲示された場合における責任のあり方、および紛争が発生した場合の各種取扱いを定めた規則である。
まず、仲介サービス提供者のうち、投稿者からの情報を格納する機能のあるもの(ホスティングサービス)では、(1)違法コンテンツについて知らないか、違法性について明らかには認識できなかったとき、あるいは、(2)実際に違法コンテンツを知ったときに迅速に削除等したときには、責任を負わない。
仲介サービス提供者に対する基本的な義務としては、(1)欧州域内に連絡窓口を設置し、法定代理人を選任する、(2)コンテンツ修正(削除など)などを利用条件に明示する、(3)コンテンツ修正にかかわる報告書を年次で発行するというものがある。
次に仲介サービス提供者のうち、ホスティングサービスでは、(1)違法コンテンツに関する通知を受け付ける仕組みを導入する、(2)違法コンテンツを削除等する場合の投稿者へ事前通知する、ことが義務付けられている。
そして、オンラインプラットフォーム(ホスティングサービスのうち、情報を保存し公衆に配布する者)の義務として、(1)内部苦情処理システムを導入する、(2)信頼できる警告者からの申し出を迅速に処理する、(3)頻繁に違法コンテンツを投稿する投稿者に対してサービス提供を停止する、(4)紛争件数等について半期報告書を公表する、(5)不当に意思決定させようとするインターフェイス設計を行わない、といった義務がある。
さらに遠隔契約が可能なオンラインプラットフォームにおいては、(1)業者情報を取引開始前に取得し、行政の命令によって開示する、(2)法令等を遵守したインターフェイスを設計する、(3)違法な商品等が販売されたときに消費者へ通知する、といった義務を負う。
最後に特に大きなオンラインプラットフォームおよび特に大きなオンライン検索エンジンにおいては、(1)システミックリスクを特定等する、(2)システミックリスク抑制のための措置をとる、(3)危機発生時に欧州委員会からの報告命令を遵守する、といった義務がある。
DSAは違法コンテンツの投稿者およびその他のサービスの受け手と、オンライン仲介サービス提供者の利害調整について定めた規則であるが、日本のプロバイダ責任制限法の範囲を大きく超える規定を持つため、その運営に注視していく必要がある。
■目次
1――はじめに
2――DSAの立法目的・概要
1|DSAの立法目的
2|DSAの概要
3――DSAの規制対象
1|DSAの適用サービス
2|仲介サービス提供者の種類
3|ホスティングサービスの種類
4――仲介サービス提供者の責任の免除と義務
1|仲介サービス提供者の責任の免除
2|仲介サービス提供者の基本的な義務
5――透明で安全なオンライン環境のための誠実義務(第3章)
1|すべての仲介サービス提供者に関する規定
2|ホスティングサービス提供者に関する追加規定
3|オンラインプラットフォーム提供者に関する追加規定
4|遠隔契約を可能にするオンラインプラットフォーム提供者への追加規定
5|特に大きなオンラインプラットフォーム等に関するシステミックリスク管理についての
追加規定
6|自主規制基準などの制定
6――導入・協調・罰則・強制(第4章)
1|管轄当局と協調
2|監督権限、共同監査および一貫性確保メカニズム
3|デジタルサービス欧州ボード
4|特に大きなオンラインプラットフォーム等の強化された監督
7――検討
1|仲介サービス提供者の免責の規定の仕方
2|紛争処理システムの仕組み
3|デザインとしてのコンプライアンス
4|システミックリスク
8――おわりに