ここで、主観確率を実感するために、1つ具体的な問題を考えてみることにしよう。欧米の確率関連のパズルのなかで、よく見かけるものだ。
(スパゲッティの "輪" の個数の問題)
50本の麺を茹でて、それにパスタソースをかけてできたスパゲッティがあります。麺の端は、全部で100個あります。この麺の端を無作為に2つとって、結んでいくことにします。100個の麺の端をすべて結び終えたときに、平均的に、麺の"輪"はいくつできているでしょうか? ただし、麺が切れることはないものとします。
まず、最初に注意しておくが、この問題は、麺がスパゲッティである必要はない。うどんでも、そばでも、ラーメンでも、フォーでも、麺であればなんでも構わない。
また、パスタソースは(まさに)問題の味付けに過ぎない。トマトソースでも、ペペロンチーノソースでも、イカスミソースでも、たらこソースでも、なんでもよい。特に、かけなくてもよい。
大切なのは、50本の切れない麺が(まさにスパゲティ的に)こんがらがっていて、そこから、ランダムに2つの端同士を結んでいくということだ。
そして、できあがった"輪"は、いくつもの麺からなる大きい輪も、一つの麺だけからなる小さい輪も、一つとしてカウントしていく。
ここで、2つの端を結ぶことを、「タイ作業」と呼ぶことにする。この問題では、タイ作業を50回行うことになる。また、もともとの一つひとつの麺を「単麵」と呼ぶことにしよう。
まず、輪の数がとりうる範囲について考えてみよう。輪の数が最も多くなるのは、タイ作業で、50本の単麵のそれぞれ端を結んだ場合だ。全部で50個の小さい輪ができることになる。
一方、輪の数が最も少なくなるのは、50本の単麺全体で、1つの大きな輪ができる場合だ。49回目までのタイ作業で単麵が1本の長い長い麺につながり、50回目のタイ作業で輪となるケースだ。このように考えると、輪の数は最少で1個、最多で50個ということになる。
さて、ここで、主観確率にしたがって、この問題の答えを予想してみよう。平均して、いくつぐらい輪ができるだろうか。読者の皆さんの考えは、次の3つの説のどれに近いだろうか?
A:「大きいものでも、小さいものでも輪は輪だ。少なくても1個は確実にできるわけだし、最多で50個もできるというのだから、まあ自然に考えれば、平均して7、8個ぐらいできる、というのが妥当な線だろう。」
B:「いやいや、初めのほうのタイ作業では、適当にとったら、たまたま単麺の端同士だったという偶然も結構起こるだろう。そう考えれば、答えはもう少し多くて、平均的には10個以上輪ができるはずだ。」
C:「ちょっと待て。筆者は、『主観確率云々』と述べたうえで、この問題を出しているのだから、そこそこ輪ができると思わせておいて、実は思いのほか輪の数は少ない、というオチではないか? そう考えると、平均的にできる輪の数は、せいぜい2、3個なのかもしれない。」
Cの説の"ヨミ"は、なかなか鋭い。筆者の心理をうまく突いている。それでは、そろそろ平均的にできる輪の数を計算してみよう。