筆者はコミュニティにおける親密圏が昨今の迷惑行為動画の投稿に繋がっていると考える。学生時代を思い出してほしい。休み時間に教室内で悪ふざけをしていたクラスメイトが、何人かいただろう。その悪ふざけは先生のいない教室内で完結し、他のクラスメイトが先生や大人に報告しない限り、そこで行われたバカ騒ぎ、悪ふざけ、少々度を超えたいたずらであっても公(問題)になるコトはなかった
3。構造としてはこれに近い。特に若者においては、現実社会におけるコミュニティは、SNS上でも繋がっている事が一般的であり、誰か知らない人と繋がるという側面のみならず、日常の延長、社会の地続きとして用いられることが普通である。また、同じSNSでもアカウントを複数擁し、同じ学校の仲間でも、より仲がいい仲間と繋がるための専用のアカウントを持っていたり、Instagramで言えば、自分が選別した仲間内しか見ることができないように投稿するなど、コミュニケーション方法や投稿する内容を使い分けている。信頼や依存度が高く仲のいいグループほど、親密圏は狭くなり、その仲間内でしか盛り上がることができないようなトピックで盛り上がったり、そのグループにいない他人を誹謗中傷したり、秘密を話したり、本レポートで言う迷惑行為を含む悪ノリなども投稿されがちだ。所謂これは、現実社会における内輪ネタ・内輪ノリの延長なのである。学校の休み時間に悪ふざけをしているノリが、下校後もSNS上で続いており、悪ノリや悪ふざけで行われる行為のレベルが非常識なモノや迷惑行為になっていくのである。内輪ネタや悪ふざけは、ある種のコミュニティにおける笑いや円滑なコミュニケーションをとるためのエンターテインメントであるため、仲間のバカげた行為で盛り上がれば、自分も何か面白いことをしようという気持ちが駆り立てられ、次第にその行為はエスカレートしていくことになる。インスタントで技巧を凝らしていない動画であっても、面白ければ(それが万人にとって面白いかは別の話)バズってしまう現在の消費文化において、「迷惑行為=行き過ぎた普通ではない行為=普通ではないから面白い」という単純な思考の中で、内輪ネタとしての迷惑行為が投稿もしくはグループラインなどでシェアされていくのである
4。ただ、それが他のSNSユーザーの目に留まれば「その投稿=迷惑行為」 は炎上という形で、その問題が表ざたになるのだが、そのような投稿や動画が外に漏れなければ、前述した教室内での悪ふざけ同様に、世間の目に留まることはないのである。言うなれば、不特定多数のために動画を投稿(撮影)しているのではなく、コミュニティでの自分の居場所や仲間から面白いやつと思われたいという
特定の見せたい誰かがいるケースの方が多いのではないかと考える。そのため、問題になっている動画は迷惑行為を撮影した動画の1つに過ぎず、そのような常識を逸脱した非常識な行為を日頃からエンターテインメントとして消費している者にとっては、投稿されていない迷惑行為も存在するわけで、炎上のきっかけを生む迷惑行為は氷山の一角にしか過ぎないと筆者は考える
5,6。また自身が、そのような非常識なことを内輪ネタにしているコミュニティに身を置いた場合は、誰もその非常識な行為を指摘することはないし、
自身が選んだ仲間たちだけという親密圏の範囲を自ら決定できるからこそ、自分の仲間がチクるわけない、という信頼感がそのような動画(証拠)として軽率に投稿される背景にあるのだろう。言うなれば、「炎上」の存在は知っているが自分には関係のない事、自分に限って炎上はしないという自信を持っているなど、炎上は他人事であると考えている可能性も十分にあるのだ。
3 いじめが公にならないのも、同じ構造だと筆者は考える。
4 多くの場合、店員や他の客の目を気にしながら動画が撮ったり、「バレたら社員に怒られる」「鍵垢(閲覧者を制限できるアカウント)じゃなきゃ投稿できない」などのコメントを添えて投稿されており、迷惑行為動画を投稿している者の多くは、その行為を迷惑行為であると認識していることの方が多いと思う。極論を言えば、回転寿司で割り箸を割るという行為は普通の事であり、面白いことでも、珍しいことでもないが、醬油をボトルから直に飲むなどの迷惑行為は、誰が見ても普通の行為ではなく、普通ではないから内輪で笑いが生まれることを本人も自覚しているのである。普通じゃないことを敢えてやるから笑いがとれるという価値観が定着しているからこそ、普通ではない事として迷惑行為を確信犯的に行っていると筆者は考える。
5 自身が身を置くコミュニティの質によっては、そもそも迷惑行為であるという意識がない者もいる
6 表に出ないだけで撮影すらされていない迷惑行為が日常的に行われている可能性もないとは言い切れないのである。一回の過ちで日ごろから迷惑行為を行っていたと疑うのはあまりにも厳しいように思われるが、一度してしまうと普段からしていたと思われても致し方ないし、それを否定するすべもないのである。加害者が普段からしていないと発言しても、その発言が本当であると証明することは難しい。
4――なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか