最後に、大学の不動産戦略の方向性と、不動産市場に与える影響について考察したい。
少子化の進行に伴い大学進学者の減少が見込まれるなか、大学の収入構成において大きな割合を占める授業料等の収入が減少し、大学運営における財政課題が顕在化する可能性がある。
立地(大学所在地人口)と規模(大学収容定員
13)に着目し、大学経営(私立大学)を分析した先行研究
14によれば、大学所在地人口が20万人未満でかつ、大学収容定員が4,000人未満の場合、大学経営が悪化
15する傾向にあると指摘されている。図表-11は、X軸に大学所在地人口(2022年時点)、Y軸に大学収容定員として、全国817校をプロットした散布図である。所在地人口が20万人未満でかつ、収容定員が4,000人未満である大学は196校(24%)が該当する。国立社会保障・人口問題研究所の人口予測
16>に基づくと、2045年には216校(対2022年比+10%)へと増加することが見込まれる。
このように、大学の経営環境が厳しさを増す局面において、資産運用収入の拡大に期待が高まるなか、大学の資産運用方針と親和性の高い不動産の運用・投資が活発化する可能性が考えられる。なかでも、大学が所有する「未利用・低利用不動産の有効活用」の観点から、保有不動産の賃貸・貸付を行い、長期安定収入の確保を目指す大学が増えることも予想される。
また、大学経営において重要な「規模」を維持する目的などから大学の合併・統合が実施される場合、新キャンパス開設に向けた用地取得や、旧キャンパス閉鎖に伴う用地売却などの取引事例が増加する可能性がある。通学利便性等に優れた都心部では、学生確保を意図したキャンパス移転やサテライトキャンパスの新設を行う大学による不動産取得等もあるだろう。
今後、不動産売買市場や賃貸市場において大学の存在感が高まることが予想され、その動向を注視する必要があると思われる。