PRI in Person(以下PiP)は、PRIに署名する機関投資家(足もと約5300)や政策当局等が世界各国から集まって意見交換する年次イベントである。2019年のパリ大会の後、コロナの影響で2年連続で開催見送りとなったが、昨年、3年ぶりに11/30~12/2の日程でバルセロナで開催された。
PiPバルセロナ大会を総括するうえで見逃してはならないポイントは、PRIが2022年夏から(2023年初にかけて)署名機関に対し「PRI in a Changing World」というコンサルテーションを行っていることである。署名機関との対話を通して、今後の責任投資の方向性について指針をたてるための調査である。同コンサルテーションにおけるキーワードの一つが"sustainability outcome"である。
SDGsやパリ協定などのグローバル目標が設定される一方、実社会の現状(real world outcome)とこれら目標との乖離が広がっており、投資家としてこのギャップにどう対応すべきか、という問いかけである。すなわち、投資家は、ギャップを縮小するよう、"sustainability outcome"の形成に能動的に努めるべきか否かということである。
PiPバルセロナ大会でのPRI 関係者(理事やCEO、モデレーター)のスピーチにおいて、"shape real world/sustainability outcomes"はキーワードの一つになっていた。責任投資において"shape outcomes"を目指すことは、ESGインテグレーションとは異なるものである。ESGインテグレーションは、将来の実社会を所与としたうえで、そこから発生するリスクと機会を投資プロセスに組み込むという、いわば受け身(passive)の投資スタンスである。一方、"shape outcomes"は、実社会に対してポジティブなインパクトを及ぼす、あるいはネガティブなインパクトを削減することにより、将来を変えようという能動的(active)な投資スタンスである。インパクト投資はその一例だが、PRIの考える"shape outcomes"を目的とした投資はより広義の概念であり、(インパクト投資ファンド以外を含む)ポートフォリオ全体のコア戦略・運用哲学として、"sustainability outcome/impact"を考慮しようというものである。
―― PRIが考える「サステナビリティ・インパクトのための投資(Investing for Sustainability Impact)」とは、投資家が資金供給やスチュワードシップ活動などを通して、サステナビリティ課題に関して評価可能なアウトカムを形成するために、投資先企業やその他の第三者(政策当局など)の行動に対して意図的に影響を与えようとする投資活動を幅広く捉えたものである。例えば、投資家が協働エンゲージメント(Climate action 100+など)やネットゼロ・イニシアティブ(NZAOAなど)に加盟することは、インパクト実現を効果的に行うための手段である。これらは特定のインパクト投資ファンドにフォーカスしたものではなく、ポートフォリオ全体について、"sustainability outcome"に関する具体的なターゲットを設定し、進捗状況を計測しながら、インパクト実現を図っていこうというものである。
大会初日の全体会合「責任投資時代の到来(The coming of age of responsible investment)」、ならびに大会最終日の全体会合「今後10年間の責任投資家の目的(Leading with purpose: asset owner expectations for the next 10 years)」において、印象に残った登壇者の発言は以下の通り。
IEA(国際エネルギー機関)のBirol事務局長は、科学者やエネルギー業界の中で1.5℃目標の実現は不可能という見解も出てきていることについて、「困難を伴うものの、1.5℃の削減目標が達成不能とは思わない(I don’t buy that 1.5 degrees is dead.)」と発言。ネットゼロ実現に向けて各国が様々な取組みを進めているが、最も重要なことはエネルギー安全保障、気候変動へのコミットメント、産業政策と指摘。