一方投げ銭においては、自分の投げ銭がアーティストにも他のファンにも見られる(認識される)オープンな場所で行われるため、(1)応援消費、(2)アーティストからの認知、(3)他のファンからの認知と自身の欲求を一度に満たすことができる。そのため、投げ銭にのめり込む消費者の動機は、人それぞれ違ってくる。自分が投げ銭をすることで‘推し’から名前を読んでもらえたり、感謝の言葉をもらえたり、質問に答えてもらえたりするなど、一時的に‘推し’が自分を意識(認知)してくれる感覚が好きな人は(1)応援消費や(2)アーティストからの認知を目的に熱心に投げ銭するだろうし、一時的に推しが自分を意識してくれている時間は他のファンから推しを独占できている状態であり、他のファンに自身の方が推しを熱心に応援している、と見せつけたり、他のファンよりも金額的に貢献できているという自己満足を得ようとするファンは(3)他のファンからの認知を目的に熱心に投げ銭するだろう。しかし、いずれの根底にも「推しを応援したい」という欲求があり、それぞれ(1)~(3)の欲求(目的)は複合的に合わさっていると考えられる。
なおCDに付属する投票券で歌唱メンバーを決めていたAKB48の選抜総選挙は良く知られた推し活方法であるが、2022年7月18日~8月3日の期間AKB48はライブ配信サービス「SHOWROOM」と連動し、視聴者からのギフティング(購入した有料ギフト
7(課金アイテム)を配信者に送ること)やコメント数に応じた総ポイント数のランキングで楽曲の歌唱メンバーや番組出演メンバーを決定する「AKB48「SHOWROOM選抜」決定オーディション」と呼ばれる企画を行った。この企画のポイントは、オーディションに参加しているAKB48メンバー内において競われ、ファンたちは自分の推しが他のメンバーよりいい順位につけるように、熱心にポイントを送れるわけだ
8。投げ銭をすることによって具体的にアイドルやアーティストの活動範囲を広げる応援に繋がることにもなり、投げ銭は応援、活躍を望むファンが直接アーティストを金銭的にも広告的にも手助けできる手段でもあるのである。
投げ銭というシステムは、推しを直接応援でき、且つこのシステムを通して自身のコメントを読んでもらえたり、名前を認知してもらえるなど、推しと直接コミュニケーションがとれるという良い側面がある一方
9で、若者を中心に金銭的な社会問題が起きていることも事実である。そもそもインターネットと若者の課金行為を巡る問題は年々大きくなっている。消費者庁の「令和4年版消費者白書」
10によれば「インターネットゲーム(オンラインゲーム)」に関する消費生活相談件数は増加傾向が続いており、2017年は4,203件であったのが2021年には7,276件と、5年間で1.7倍に増加している。特に20歳未満の相談件数が増えており、2021年の相談件数7,276件の内、4,443件が20歳未満であった。