はじめに
「図形数(figurate number)」と呼ばれるものは、「一定の規則で図形上に並べられた点の個数として表される自然数」を指している。図形数に関する研究の歴史は古く、古代ギリシアのピタゴラス学派は、「万物は数である」、「数学はあらゆるものの基礎である」、「幾何学は数学研究の中で最上位にある」との考え方のもと、図形と結び付けられた数に強い関心を有していたとされている。数字を図形という形で視覚化されたものと結び付ける(むしろ、世の中の形あるものを数字で表してきているといった方が正しいかもしれない)ことで、数字や数学の理解が進んできた面が大きいといえる。
今回は、こうした図形数に関する話題を取り上げることとする。
三角数
「
三角数(triangular number)」というのは、下図のように正三角形の形に点を並べることによって得られる点の総数を指している。
この時、n番目の三角数T
nとなる、一辺にn個の点を並べてできる正三角形の点の総数は、以下の通りとなる。即ち、「
n番目の三角数Tnは、1からnまでの和」となる。
この算式は、学生時代に学んだ有名な等差数列の公式である。ドイツの偉大な数学者カール・フリードリヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauß)が少年時代に即答したという有名なエピソードに現れてくる考え方で、上記の三角数を構成する図形を、以下の図のように上下に2つ重ね合わせて、矩形を作ることで、上式が正しいことが視覚的にも理解できることになる。因みに、三角数を2倍した数は「
矩形数(pronic number)」あるいは「
長方形数」等と呼ばれる。矩形数は、連続する自然数の積となっている。
三角数の性質
三角数には、いくつかの性質があるが、ここでは2つ紹介する。
1つ目は、「
三角数Tnは、(n+1)個の集合から、2個を取り出す組み合わせの数」を表している。即ち T
n=
n+1C
2 となる。これは、
n+1C
2=n(n+1)/2 であることから確認できるが、下記の図からもそれが正しいことがイメージできる。
次に、「全ての自然数は、3個以下の三角数で表すことができる。」というものがあり、「ガウスの三角数定理」と呼ばれている。これはパスカルによって主張され、1796年の日記によれば、ガウスによって証明されたと言われている(これに対して、1798年にルジャンドルによって証明されたとも言われている)。この定理の証明は難しいので、興味・関心のある方は専門書にあたってもらいたい。
四角数
「
四角数(square number)」というのは、正方形の形に点を並べた時にできる点の数で表される数である。「
平方数」とも呼ばれる。
この時、n番目の四角数(平方数)S
nは、その名の通り、以下の通りとなる。即ち、「
n番目の四角数は、1からn番目の奇数までの総和で、n2 になる。」
S
n=1+3+5+・・・+(2n-1)=n
2
この式が正しいことは、数学的帰納法で示せるが、一方で以下の図からもイメージできる。
四角数の性質、三角数との関係
四角数についても、いくつかの性質があるが、ここでは三角数との関係を含めて、3つ紹介する。
まずは、「
四角数は2つの連続する三角数の和」となる。即ち、S
n=T
n-1+T
n となる。これは、もちろん算式で簡単に示すことができるが、下の図からも正しいことがイメージできる。
また、「
三角数の8倍に1を加えると四角数になる。」これは、図のイメージでも示すことが出来るが、算式でも以下の通りとなる。
さらに、「全ての自然数は、4個以下の四角数(平方数)の和で表される。」(「ラグランジュの四角数定理」あるいは「四平方定理」)というものがある。1772年にフランスの数学者ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange)によって証明されている。
多角数(五角数、六角数等)
三角数や四角数をより一般化して、任意の自然数nに対して、正n角形の形に点を並べた時に、得られる点の総数を「
多角数(polygonal number)」という。
三角数定理や四角数定理は、より一般的な多角数の場合に拡張される、即ち、全てのm≧3 に対して「
全ての自然数は m個以下のm角数の和で表すことができる」(「
多角数定理(polygonal number theorem)」)。この一般的な定理は、1638年にフェルマーによって定式化され、一般的なケースについては、1813年にフランスの数学者オーギュスタン=ルイ・コーシー(Augustin Louis Cauchy)
1によって証明された。
このうちの「
五角数」については、以下の通りとなる。
n番目の五角数P
nについて、P
n+1=P
n+3n+1 が成り立つことから
となる。この式から、「
n 番目の五角数は (3n – 1)番目の三角数の 1/3 に等しい。」ことがわかる。
また、「
n 番目の五角数はnからの n連続整数和で表せる。」
これは、算式でも容易に示すことができるが、上記の五角数の図からも確認できる。
「
六角数」については、以下の通りとなる。
n番目の六角数H
nについて、H
n+1=H
n+4n+1 が成り立つことから、
となる。この式から、「
n 番目の六角数は (2n-1)番目の三角数に等しい。」即ち、全ての六角数は三角数でもある。
なお、以前の研究員の眼「
完全数とその魅力について-「博士の愛した数式」を観て、改めて数字の持つ奥深さに魅せられました-」(2017.2.13)において、「完全数」
2について紹介したが、そこで述べたように、これまでに確認された完全数は全て偶数である。偶数の完全数は全て奇数番目の三角数でもあり、「
現在知られている完全数は全て六角数」ということになる。
1 学生時代に学んだ数学においても、コーシー分布やコーシー=シュワルツの不等式等にその名が残されており、多大な功績を残している。ラグランジュとともに、エッフェル塔に名前を刻まれた72人のフランスの科学者のうちの一人である。
2 完全数とは、「その数字自身を除く約数の和がその数字自身に等しい自然数」のことをいう。
三角数でもあり四角数でもある数
ここまで、三角数、四角数、五角数、六角数について紹介してきたが、例えば六角数は全て三角数であると述べた。それでは、三角数でもあり、四角数でもある数は、存在するのだろうか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれない。これは実際に存在して、「平方三角数(square triangular number)」と呼ばれている。具体的には「1」以外に、例えば「36」がこれに該当している。36=8×9/2 であり、36=62 でもあることから、36は8番目の三角数であり、6番目の四角数でもある。
これについては、より一般化できる。
ある数がn番目の三角数であり、かつm番目の四角数であるとすると、次の式が成り立つ。
n(n+1)/2 =m2
この式は、以下のように変形できる。
(2n+1)2-2(2m)2 = 1
ここで、x=2n+1、y=2m とおくと
x2-2y2=1
となる。
ぺル方程式
一般的に、整数xとyに関する不定方程式 x
2-dy
2=1 (dは正の整数)は「
ぺル方程式(Pell’s equation)」と呼ばれている。
ぺル方程式(に関連した問題)は、大学の入学試験問題にも時々現れてくる。
ぺル方程式において、(x、y)=(1,0)、(-1,0)は
自明な解(trivial solution)となる。
ぺル方程式については、以下のことが成り立つ。
(1) ペル方程式には必ず自明でない解が無限個存在する。
(2) ペル方程式の解の中で、x+√d・y を最小にするような解を (x
0, y
0)とすると、自然数 n を用いてx+√d・y=(x
0+√d・y
0)
n という形で書ける (x,y)もまたペル方程式の解となり、それで全てが尽くされる。
これによれば、先ほどの「平方三角数」に関するペル方程式については、
(3+2√2)
n の、整数部をx
n、√2の係数をy
n とすることで、全ての解が得られることになる。
具体的には、例えば、
(3+2√2)
1 = 3+2√2 3
2-2・2
2=1 n=1 m=1 数値は1
(3+2√2)
2 = 17+12√2 17
2-2・12
2=1 n=8 m=6 数値は36
(3+2√2)
3 = 99+70√2 99
2-2・70
2=1 n=49 m=35 数値は1,225
(3+2√2)
4 = 577+408√2 577
2-2・408
2=1 n=288 m=204 数値は41,616
・・・・・・・
となる。
このように「平方三角数」は無数に存在する。
なお、k番目の平方三角数N
kは、以下の公式で与えられることが、1778年にレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)によって発見されている。
最後に
今回は、図形数のうちの2次元の平面図形に関する数とそれに関連する話題として、ペル方程式について紹介した。
冒頭で述べたように、数字を図形に結び付けることで、イメージが湧きやすくなり、数式の構造の把握等にも役立つことが一定ご理解いただけたのではないかと思っている。
次回は、立方数等の3次元の立体図形に関する数について紹介することにする。