コラム

Z世代を1000文字くらいで語りたい(4)-「コスパ」 から 「タイパ」へ

2022年11月28日

(廣瀨 涼) 消費者行動

1――コスパ、コスパと騒がれた10年前

Z世代(1996~2012年に生まれた層)においては、情報が溢れる現代社会において、消費行動を行うにあたって自身がわざわざ消費する必要があるかないか、という点を強く考慮に入れる傾向がある。ここで言うわざわざとは、再現性の高い消費を皆に倣って行い、自身のリソース(金や時間)をわざわざ割く必要があるのか考慮することもそうだし、その消費を行う事で得られる費用対効果を考えた時にわざわざ消費することで得られることはあるのか、と考慮することも含まれる。筆者がまだ大学生だった2010年頃、女優の上戸彩を起用した日本通運のCMにて「コスパで選んでる?」とコスパという言葉が使われたこともあり、大学生の多くが事あるごとに何かとコスパ、コスパと唱えていたことを覚えている読者もいるのではないだろうか。コスパとはもちろん「コストパフォーマンス」の事を指し、支払った費用(コスト)と、それにより得られる効果(パフォーマンス)を主観で比較した際に、低い費用で高い効果が得られれば「コスパが高い」わけである。

2――コスパに代わるタイパ

今では普通に使われるようになったコスパだが、Z世代においてはコスパに代わる「タイパ」を追求することが主流な価値観となっている。タイパとは「タイムパフォーマンス」の略で、費やした時間に対する結果の満足度を表している。すごく簡単に言えば、極力労力(時間)をかけずに満足感を得たいわけだ。
情報が溢れている現代社会においては処理しなくてはいけない情報が多すぎる一方で、消費したいこと、消費したいモノなども以前に増して増えている。しかし、消費者個人のリソース(時間や金)には限りがあり、それを如何に配分するかが焦点となる。前述した「わざわざ消費をする必要があるか考える」という価値観は正に、タイパを重視しているからと言えるだろう。一方で、若者の言うタイパには、モノやサービスを消費する際にかかった時間とその消費対象から直接得た効用がかけた時間に見合っていたか、という文脈で使われるのみならず、その消費結果をフックに他人とコミュニケーションをとる際に如何に時間をかけずに、満足のいくコミュニケーション水準まで自身の経験値や知識量を増やすことができるかという文脈でも使われているようである。2022年10月14日放送のテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」において集英社少年ジャンプ+の細野修平編集長もインタビューで答えていたが、若者にとっては、5分間漫画を読むよりも、5分間動画を視聴する方がタイパがいいらしいのだ。ここでのタイパとは5分間でいくつのコンテンツが消費できるのかという費用対効果の側面ではなく、消費したコンテンツをフックに他人と(主に友人と)コミュニケーションをとる際に、マンガの場合ではコミックスを購入する支出やそれを読むための時間が、YouTubeやTikTokの動画をきっかけにコミュニケーションをとるよりも全ての面でコストがかかってしまいタイパが悪いと判断されてしまうらしい。確かに映画の映像を無断で使用し、字幕やナレーションをつけて10分程度に要約した「ファスト映画」に需要があったのも、映画一本丸々を視聴しなくともストーリーとオチさえわかればその作品に関しての話題を他人と共有できるわけで、そのような視点からはすこぶるタイパが良いと言えるだろう。また、消費に失敗したくないという考え方や、わざわざお金を出して自分が視聴する必要があるのかを考えるという消費行動パターンを考慮すると、ファスト映画に需要が生まれてしまうわけである。

また、オタクという言葉が自身の趣味・趣向を表すアイデンティティという意味と同義で使われるようになった現代社会において、自身が何かのオタクであることを公言することはごく普通のこととなり、オタクであることをフックに他人とコミュニケーションをとろうとする若者も多く散見されるようになった。従来、好きなものに熱中することがオタクになる(オタクである)事であったのだが、どうすれば手間をかけずにオタクを名乗れるのかを追求するZ世代も増えている。映画を例に挙げると、他の映画の熱烈なファンに何の映画を見ればオタクを名乗れるのか、最短でオタクになるには何を見ればいいのか、とSNSを通じて質問している若者も多い。またファスト映画に限らず、ネタバレサイトなどを利用し、結末を知ることでその作品を消化しようとする者もいる。このような消費者にとって映画はディテールや登場人物の心理描写を鑑賞するものではなく、その作品を見たという事実を得るための消費物なのである。

3――タイパから見るサッカー

昨今では、若者のスポーツ離れという言葉を耳にすることも増えた。特にサッカーにおいては、本来は90分間、その瞬間瞬間が生み出すストーリーを消費して楽しむことが普通だったが、最近では試合内容よりも、群衆の盛り上がりそのものから高揚感を得るような若者も増えており、サッカーの試合観戦は本質的に「コミュニケーションツール」としての側面が大きくなっている。多くの動画配信サービスでは倍速視聴の機能を擁し、それをプロモーションの売りにしていることも多い。また、YouTubeにおいては地上波の番組よりも動画の尺がそもそも短いにも拘らず、最近ではTikTokのようにより短い時間で視聴者が満足いく動画が選好されるようになると、YouTubeの尺は長いと判断され、YouTube本編の動画のハイライトを切り抜いたいわゆる「切り抜き動画」に高い需要が見出されている。このようにサッカーファンではない層においては勝敗、得点、失点の場面場面を把握できていればサッカーというコンテンツを用いて十分に他人とコミュニケーションができるわけで、SNSのタイムラインで友達が盛り上がっている時を見計らって、チャンネルを合わせればご丁寧にそのシーンのリプレイが流れており、90分間テレビにずっとかじりついていなくとも、得られるコミュニケーションの質は同じだと、感じているのかもしれない。

4――さいごに

本レポートでも紹介した通り、若者の間で使われているタイパは、消費結果をフックに他人とコミュニケーションをとる際に如何に時間をかけずに、効率よく満足のいくコミュニケーション水準まで自身の経験値や知識量を増やすことができるかという文脈で使われている。この文脈においては、コンテンツは如何に効率よく消化できるかという対象であり、本来の鑑賞やそのものから得られるエンタメ性よりもコミュニケーションツールとしての側面が期待されていると言えるのではないだろうか。一エンタメファンとしては、文字通りファストフードの様に手っ取り早く、深い感動も生まれない消費のされ方に一抹の寂しさを感じなくもないが、若者に限らず我々は日常生活を通して、「ながら消費」を行っており、このようなタイパを追求した消費方法は、情報が溢れ過ぎている現代社会において効率性を追求した消費の一様式なのであると筆者は考える1
 
1 ファスト映画を肯定するわけではないし、エンタメを消費したいという欲求がインスタントな方法で充足されていくことを望ましいとは思っていない。

生活研究部   研究員

廣瀨 涼(ひろせ りょう)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴

【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
     ニッセイ基礎研究所入社

・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会

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