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検査権限
欧州委員会は8条(義務遵守)、29条(不遵守)、30条(課徴金)にかかる決定を適用することを目的として手続を開始するには、手続開始決定を行う(20条1項)。ただし、欧州委員会は手続き開始決定前であっても検査権限を行使することができる(同条2項)。
本規則の責務を履行するために、欧州委員会は事業者又は事業者団体から、単なる要請または決定によってすべての必要な情報を要求することができる。同様に事業者の保有するデータ、アルゴリズム、検証に係る情報及びその説明を要求することができる(21条)。
また、本規則の責務を履行するために、欧州委員会は同意をした個人または法人に対して聴取することができる。聴取内容については技術的方法で録音することができる(22条)。
さらに本規則の責務を履行するために、欧州委員会は事業者及び事業者団体についてすべての必要な検査を行うことができる(23条1項)。これには物件への立ち入り、帳簿の調査、帳簿の謄写、すべてのシステム等へのアクセスや説明を求めること、物件の差し押さえを含む(同条2項)。
2|中間的措置・確約計画
ビジネスユーザーとエンドユーザーに対して、重大で取り返しのつかない損害が発生するリスクのある危急の場合、欧州委員会は29条の不遵守決定の適用を前提に開始した手続の中で5条~7条違反の一応の侵害認定に基づいて中間的措置を命ずる実施法令(implementing acts)を適用することができる(24条)。
18条(組織的な不遵守に関する調査)の手続において、GKは5条~7条の義務を遵守することを確保するための確約計画(commitments)を申し出ることができ、この場合欧州委員会は確約計画が拘束力を有する実施法令を適用し、これ以上の手続を行う根拠がないことを宣言する(25条)。
3|モニタリング・第三者からの情報・遵守組織
欧州委員会は5条~7条(作為義務・禁止行為)、8条(義務遵守)、18条(組織的不遵守に対する市場調査)、24条(中間的措置)、25条(確約計画)の決定を効果的に導入し、遵守することをモニターするために必要な措置をとる。これらの措置には特に義務や決定を導入し、遵守することを評価するために必要とみられるすべての書類を保管することを義務付けることが含まれる(26条)。
指定されたCPSのビジネスユーザー、競争者およびエンドユーザー、あるいはそれらの代表者は各国競争法当局または欧州委員会へ直接、本規則範囲内の慣行又は行為について通報することができる(27条)。
GKはGKの運営組織から独立した、組織長を含む一人または複数の遵守役員(compliance officers)からなる遵守組織(compliance function)を導入する必要がある(28条)。
4|規則の不遵守
欧州委員会は5条~7条(作為義務・禁止行為)、8条2項(6条遵守のための義務)、18条1項(組織的不遵守に対する改善策)、24条(中間的措置)、25条(確約計画)違反に対して、不遵守決定(non-compliance decision)を下すことができる(29条1項)。欧州委員会は20条の開始決定から12カ月以内に不遵守決定をするように努める(同条2項)。
不遵守決定があった場合、欧州委員会は前年度世界売り上げの10%を超えない額の課徴金(fines)を課すことができる(30条1項)。また、過去8年以内に同一CPSで不遵守決定を受けていた場合には、世界売り上げの20%までの課徴金を賦課することができる(30条2項)。
また、8条や18条などの遵守を求めるため、事業者、GK、事業者団体に前年度一日あたり世界売り上げの5%を超えない範囲での日額での定期的な罰則金を支払うよう決定することができる(31条)。これら課徴金等が課せられる行為については5年が時効である(32条)。また課徴金等の納付についての時効も5年である(33条)。
欧州委員会は各種決定にあたって、関係するGK、事業者、事業者団体に対して、中間見解(preliminary findings)および中間見解に基づいて委員会が採用しようとする方策について、意見を述べる機会を付与する(34条1項)。なお、GKの防御の権利を尊重するため、事業者の営業機密の合理的な制限の元、欧州委員会の保有するファイルにアクセスすることが認められる(同条4項)。
5|他機関との協働等
欧州委員会は規則の実行と規則の目的に向けた進展についての年次報告書を欧州議会と欧州評議会に提出する(35条)。本規則に従って収集された情報は本規則の目的のみに使用される(36条)。欧州委員会と各国当局は緊密に連携し、本規則の意図する範囲内で整合的で、効果的かつ補足的な利用可能な法的手段を利用しつつ協働する(37条)。また欧州委員会と各国の競争法担当当局は、欧州競争ネットワーク(European Competition Network)を通じて協力し情報交換を行うものとする(38条)。さらに各国裁判所は本規則の適用手続において欧州委員会にその保有する情報と本規則適用にあたっての見解を求めることができる(39条)。
欧州委員会は本規則のためハイレベル会議体を設置する。この会議体には(1)欧州電気通信監督団体、(2)欧州データ保護監督者および欧州データ保護ボード、(3)欧州競争ネットワーク、(4)消費者保護協調ネットワーク、(5)映像メディア監督官による欧州監督団体から構成される(40条)。
3か国以上の域内国は事業者がGKとして指定されるべきとの疑いを持つ十分な理由があると考えるときには17条の市場調査を開始するよう欧州委員会に要請することができる(41条1項)。また、一以上の域内国はGKが5条~7条の義務に組織的に違反し、かつGKとしての地位を維持、強化、拡大していること疑うに足りる合理的な根拠があると考えるときは欧州委員会に18条の市場調査を実施するよう要請することができる(41条2項)。
9――まとめ