本章では、北米とオーストラリアで開発されたアクチュアリー気候指数を参考に、日本での指数の試作に向けて検討していこう。指数の試作にあたり、そもそも気象に関するどの項目をみるべきか、という検討ポイントが考えられる。ただ、これについて検討を進めていくと、候補としてさまざまな項目が考えられて、収拾がつかなくなる恐れがある。そこで、今回は、北米やオーストラリアと同様に、高温、低温、降水、乾燥、強風、海面水位の6項目を用いることを前提とする。
今回の指数は、気象庁がホームページで公開している気象データ(「過去の気象データ・ダウンロード」(気象庁HP))と、潮位データ(「歴史的潮位資料+近年の潮位資料」(気象庁HP))を用いる。試作にあたって検討すべき点がいくつかある。以下、それぞれのポイントと設定について述べていく。
1|参照期間をどの期間に設定するか?―1971~2000年に設定
気候指数では、参照期間を設定してその期間の平均からの乖離度をもとに、気候変動の様子を捉えることが行われる。その際、まず検討点となるのが、参照期間である。
参照期間を考える際は、気象観測における「平年」と整合的であること、有用なデータが取得できることなどが要件となる。
まず、平年について。気象観測でよくいわれる平年値は、西暦年の一の位が1の年から、30年後の一の位が0の年までの30年間の平均値をいう。参照期間を平年と揃えて設定すれば、気象観測と気候指数の関係が保ちやすくなり、さまざまな点で都合がよいと考えられる。
つぎに、有用なデータが取得できること。一般に、古いデータほど、対象地域が限られていたり、データの観測方法が現在と異なっていたりするため、データの有用性は乏しくなる。たとえば、風速や潮位のデータについては、1960年代まではデータが一部欠損していたり、観測方法が異なっていたりするため、有用性に難がある。
これらを踏まえて、今回は参照期間を1971~2000年に設定することとした。
2|季節だけではなく月の指数も作るか?―月の指数も作る
オーストラリアでは、季節の指数だけを作成している。北米でも、主にグラフなどで公表しているのは季節の指数だ。そこで、月の指数は作るか、という検討点が生じる。
今回試作する結果は、主として季節の指数での表示を行うこととなる。しかし、月ごとに推移をみるニーズが皆無とは言えない。そこで、今回は、季節だけではなく月の指数も作ることとする。
3|どのように地域区分を設定するか?―今回は区分を設けない
地域区分をどのように設定するかは、気候指数を作成する上で、大きな検討点といえる。北米ではアメリカを7つ、カナダを5つの地域に分けている。また、オーストラリアは、12個の地域に区分している。
ただ、日本の場合、多くの地域がケッペンの気候区分でいう温暖湿潤気候(Cf)に属する
19。このため、広い国土を持つ3国と同じように地域区分を設ける必要はない、という考え方がありうる。
一方で、日本は、太平洋側と日本海側、沿岸部と内陸部では、高温、低温、降水などの気象が異なっている。また、日本列島は南北に長いため、たとえば、冬季には北海道で気温が氷点下となるのに対して、沖縄では10℃程度にまでしか下がらない。このような地域ごとの気候の違いをもとに、日本独自の気候区分を設けることも考えられる。
ただ、今回は、初めての気候指数の試作ということもあり、そもそも取得データに限界があるうえに、指数計算システムの稼働能力にも制約がある。そこで、特に、地域区分を設けずに、東京、大阪、名古屋の3地点の指数を試作して、その推移をもとに、指数としての妥当性をみていくこととした。日本での地域区分の設定のあり方については、今後の検討課題とする。
19 北海道のほぼ全域と東北地方内陸部、北関東・甲信越・飛騨・北陸地方の高原地帯は、亜寒帯湿潤気候(Df)。沖縄の先島諸島の大部分や大東諸島南部は、熱帯雨林気候(Af)に属する。