テレビのニュースを見ていると、「このほど国会で可決成立した令和×年度補正予算は、□兆□□□□億円。これは、1万円札を積み重ねたときに、富士山○個分に相当する規模」などと報じられることがある。
ふつう、兆円規模の金額をイメージするのは難しいため、お札を積み重ねたときの高さを富士山の個数で表現して、視聴者に実感してもらおうということだろう。このように、何かよく知られたものを用いた「~○個分」という例示にはどのようなものがあるか、少し見ていくこととしたい。
◆ 富士山1個分の札束の高さは、3776億円
まず、富士山から。富士山は、1万円札と比較されることが多い。日本の紙幣は、独立行政法人 国立印刷局で作られている。同局のホームページによると、1万円札は厚さが約0.1ミリメートル。積み重ねると、100万円で約1センチメートル。1億円で約1メートルとなる。よく知られているように、富士山の高さは3776メートルだから、富士山1個分で約3776億円となる。
例えば、5月に成立した令和4年度補正予算は2兆7009億円で、富士山7個分以上に相当する。また、令和4年度の一般会計歳出の当初予算は107兆5964億円なので、富士山約285個分に相当する。
一般の視聴者からすると、富士山7個分はまだしも、285個積み重なった高さというのは、かなりイメージしづらいかもしれない。こうなると、とにかくとてつもない金額だ、ということだけが一般の人々の頭に残ることになる。
◆ 東京ドームは広さの単位!?
ある広大な土地の広さを表すのによく用いられるのが、東京ドームだ。東京ドームの運営会社のホームページによると、東京ドームの建築面積は4万6755平方メートルで、これが面積の基準としてよく使われる。(ちなみに、グラウンドだけだと、面積は1万3000平方メートルとされている。)
東京ドームの面積は、さまざまな土地の広さを表すのに用いられる。例えば、東京の公園でいうと、上野恩賜公園は53万8507平方メートルで、東京ドーム11.5個分。代々木公園は54万529平方メートルで、東京ドーム11.6個分。葛西臨海公園は77万6319平方メートルで、東京ドーム16.6個分。小金井公園は、80万2341平方メートルで、東京ドーム17.2個分といった具合だ。
東京ドームは、東京以外でもよく用いられる。例えば、沖縄県の八重山諸島にある竹富島の面積は約5.42平方キロメートルで、東京ドーム約116個分となる。ただ、竹富島の広さを東京ドームで表すとわかりやすくなるのかどうか、何とも言えないところだろう。
また、琵琶湖は669.26平方キロメートルで、東京ドーム1万4300個以上の広さに相当する。東京ドーム1万個分を上回る広さと言われても、ただとてつもなく広い、ということしか実感できないかもしれない。
そもそもなぜ東京ドームが基準となるのか。これには諸説あるようだ。東京ドームが都心の中央にあって、野球やコンサートなどで、何万人もの観客を集めるよく知られた施設であることが、理由として考えられる。
◆ 東京ドームは容量の単位でもある
東京ドームは、ある巨大なものの容量を表すときにも用いられる。東京ドームの運営会社のホームページによると、東京ドームの容積は124万立方メートル、つまり124万キロリットルとされている。
よく知られている話だが、東京ドームは、Googleの検索サイト上で、体積の単位として用いられている。例えば、検索ワード入力部分に「1000000キロリットル 東京ドーム」と入力して検索すると、
「1000000キロリットル = 0.806451613東京ドーム (数式 体積の値を1.24e+6で除算)」
といった、"答え"が得られる。
東京ドームという単位は、例えば、ビールの消費量に用いられる。キリンビール株式会社の公表資料によると、2020年の世界のビール総消費量は約1億7749.9万キロリットル。これは、東京ドーム約143杯分に相当する。
このうち、日本は441.6万キロリットルで、約3.6杯分に相当する。1年間に日本全体で東京ドーム約3.6杯分のビールを飲みほしているわけだが、一般の人にはピンとこないかもしれない。
また、ごみの量にも、東京ドームが用いられる。環境省の公表内容によると、令和元年度のごみ総排出量は4167万トン。ごみの比重を1立方メートルあたり0.3トンとして容量に換算すると、1億3890万立方メートル。これは、東京ドーム約112杯分に相当する。
東京ドーム約112杯分もの大量のごみをイメージすると、誰でも陰鬱な気分になってくるはずだ。ごみを減らす取り組みがいかに重要か、が実感できるだろう。
◆ レモン1個 = ビタミンC 20ミリグラムとされている
つづいて、食べ物に含まれる成分の量を表す方法を見ていこう。
よく清涼飲料水などでみかけるのは、「レモン○個分のビタミンC」という、うたい文句だ。ペットボトルなどのパッケージにレモンの絵柄が描かれていると、それを見ただけで口の中に酸っぱさを感じてしまうこともある。
実は、レモン果実の個数によってビタミンCの量を表示することについて、かつては「ビタミンC含有菓子の品質表示ガイドライン」があった。しかし、このガイドラインは2008年に廃止されており、代わって社団法人全国清涼飲料工業会と社団法人日本果汁協会が、連名で基準を示した。それによると、「清涼飲料水に添加されたビタミンC量をレモン果実の個数により表示する場合には、レモン果実1個当たり『20㎎換算』を基準とすることが適切である」とのことだ。
この基準値の20ミリグラムは、レモン1個の重量を120グラムとして、レモン果汁(全果に対する果汁分30%)100グラム当たりのビタミンCが50ミリグラムであるとして、次のように算定されている。
120グラム(レモン1個) × 30%(果汁分) × 50ミリグラム(ビタミンC)/100グラム(果汁)≒20ミリグラム
実は、可食部100グラム当たりで、レモン果汁(50ミリグラム)よりも多くのビタミンCを含む食品には、アセロラ果実飲料[10%果汁入り飲料](120ミリグラム)、キウイフルーツ[緑肉種](71ミリグラム)、赤ピーマン[果実、生 (別名パプリカ)](170ミリグラム)などいろいろある。(「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)より) ただ、ビタミンCといえばレモンというイメージが定着していて、レモンの個数での表示がよく用いられるようだ。
◆ レタスは食物繊維の例示の定番だが…
もう1つ、昨今の社会全般の健康志向の高まりを受けて、整腸作用のある食物繊維も注目されている。機能性食品などで食物繊維の量を表示するときに、よく用いられるのがレタスだ。
「レタス○個分の食物繊維に相当」などと表示することで、なんとなく体によさそうな感じがする。「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)によると、レタス[結球葉 生]は可食部100グラム当たり1.1グラム。レタス1個の重量を300グラムとして、レタス1個当たりの食物繊維は3.3グラム。これを基準として用いることが一般的だ。
ただ、可食部100グラム当たりで、レタス(1.1グラム)よりも多くの食物繊維を含む食品には、ごぼう[根 ゆで](6.1グラム)、さつまいも[塊根 皮つき 蒸し](3.8グラム)など、他にもたくさんある。レタスは、サラダの定番として食卓に上ることが多いため、食物繊維の基準に使われやすいようだ。
なお、ビタミンCを「レモン○個分」、食物繊維を「レタス○個分」というように、「食品○個分」という形で表示することについて、2014年に内閣府の消費者委員会 食品表示部会 栄養表示に関する調査会では、何らかの基準を設けるかどうか検討している。
その検討に際して、「レタス3個分の食物繊維シリアル」というパッケージ見本を示して、全国でアンケート(インターネット調査, 20歳以上の男女, n=6000 (平成25年度消費者庁調査事業))を行ったところ、72.8%の人がこれを「栄養強調表示と思う」と回答したという。このことから、「食品○個分」を用いて極端な表示をすることには優良誤認表示(*)を招くおそれがある、といえそうだ。
(*) 商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為 (「優良誤認とは」(消費者庁HP)より)
同調査会では、こうした「食品○個分」のような表示については、その食品の代表的な量を示すことは困難なため引き続き基準を設けないとし、事実に基づいたものである限り、販売者の責任で任意に表示することとしている。
◆ 髪の毛の太さは、小ささの基準
今度は、小さいものの表し方について見てみよう。小さいものは、髪の毛の太さを用いて表すことが一般的だ。花王株式会社のヘアケアサイトによると、髪の毛の太さは、日本人女性の場合、平均約0.08ミリメートル程度とされている。男性も大体同じとみてよいだろう。
そこで、例えば、健康に影響を与える大気中の粒子の大きさを、髪の毛の太さで表すということが行われる。花粉症の原因となるスギ花粉は、直径0.03ミリメートルほどだ。これは、髪の毛の2分の1以下の大きさとなる。
もっと小さい粒子としては、PM2.5 (Particulate Matter (微小粒子状物質)) が知られている。アジア大陸内陸部の砂漠から舞い上がった黄砂が、日本に飛来した場合に、大気中に含まれるとされる。ここで2.5とは、2.5マイクロメートルを意味する。ただ、一般の人々は、マイクロメートルという単位はなじみがなく、実際にどれほど小さいのか、よくわからない。
こんなときに、髪の毛を使った例示が役に立つ。2.5マイクロメートルは、0.0025ミリメートルと同じだ。つまり、髪の毛の太さの30分の1以下に相当する。ものすごく小さいわけだ。
PM2.5を吸い込むと、肺の奥にまでたどりついてアレルギー反応を引き起こすとされる。髪の毛と比較することでPM2.5の粒子の小ささをイメージできれば、吸い込んだときに、肺の奥にまで達っしてしまうということが実感しやすくなるだろう。
◆ 「~○個分」や「~の○分の1」の例示で実感を深める
以上、何かよく知られたものを用いた数量の例示について見ていった。このうち、「食品○個分」といった食品の成分の表示は、慎重に行うべきといえるだろう。消費者の優良誤認につながりかねないためだ。
一方、ごみの量やPM2.5の大きさのように、環境や健康の問題に関係する数量については、「~○個分」や「~の○分の1」を上手に例示することで、人々の理解を深めることにつながる。そうなれば、問題への関心も高まるはずだ。こうした例示を工夫することは、とても有意義といえるだろう。
今度、メディアなどで、「~○個分」や「~の○分の1」という例示を見かけたら、それがわかりやすいかどうか、少し考えてみるのもよいかもしれない。
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