青木氏: 国だけではなく、市区町村もそうです。実証実験をよくやっている前橋市や、チョイソコを始めた愛知県豊明市などは、住民ニーズを肌で感じた行政マンが、現状を良くしようと一生懸命やっている。逆に言えば、どの市区町村も、本気になって問題を解決しようとすれば、何かできるはずなのです。ただ、市区町村によってそれができないのは、全体の型をどうすべきかが、どうしたら課題解決できるかが見えていないのだと思います。
これからも国内では人口減少が進んでいきますが、地域課題に対し、様々な主体が組織横断的に取り組むことで、何とか持続可能な社会を作れるはずです。そのプレーヤーの一つとして、介護事業者が参画できるようになってほしい。タクシー事業者も同じです。これだけ社会が変わってきたのだから、企業の事業ドメインも従来から変わるのが自然です。JRなんか、地域によっては、交通より不動産の方が売上が大きい。介護事業者も、タクシー会社も変わるべきです。
地域のプレーヤーが住民の生活を支え、社会課題を解決していくのが本当の地域包括ケアです。介護保険の財源が厳しくて、介護報酬ではそのようなサービスに手当ができないのであれば、福祉ムーバーのように、自由市場で、事業者の知恵でサービスを提供し、事業者の増収にもつなげられれば一番良い。
でも介護事業者はなかなか、そのような知恵が使えない。市場経済に置かれた企業はいろいろ知恵を絞って新しいビジネスを開発していますが、介護業界は市場経済じゃないから、事業者はできないことが多いと感じています。小さい事業者はまとまって取り組めば、何かできることはあるはずだし、もしできないなら後押しが必要です。
みんなで組織横断的に解決に向けて取り組む、その先駆けになる課題が、移動だと言えるのではないでしょうか。地方でも都市部でも、高齢者も障がい者も子どもも、皆に共通する、とても重要な課題だからです。福祉ムーバーは、完全に地域の課題解決のために考えられた取組ですから、こういうことが必要です。そのためにICTやDXはファンダメンタルズであり、必要な手段でしょう。
坊: 青木さんからもたくさんの話題を提供して頂きましたが、その中でも、市場経済ではないがゆえに、歯がゆい点があるというのは、その通りだと思いました。
デイサービス事業所は、送迎する車もある、運転する人もいる、送迎へのニーズも目の前にある。でも、施設以外には送迎サービスができないという、市場経済から見たら不思議な状態です。なぜかというと、法制度が違うから。ただし、現行の法制度でも、無償であれば、デイの車両が送迎途中に利用者さんをスーパーでも降ろしても良いなど、できることはあるはずなのに、実態としてはそれもできていないというお話でした。非常に勿体ない状態だと思います。
厚労省の通知で「通常の経路を逸脱しなければ良い」と書いてあるから、道の反対側に店があったら認めない市町村もあるという、笑えない話です。運用上、そのような問題が起きる原因としては、そもそも、移動に関する課題認識が浅いのではないでしょうか。青木さんがおっしゃったように、市区町村の介護保険事業計画を見ていると、住民の意識では、移動の問題がトップランキングになっているところが多いです。このような地域課題に対して、みんなでこの問題を優先的に解決していこうというビジョンを共有するのが、最初の段階でとても大事で、それが、青木さんがおっしゃるような組織横断的な取組につながっていくのではないかと思いました。
今後の話で、介護事業者が小さいところも多く、なかなかできないことが多いというお話でしたが、来年度からは社会福祉法の改正によって、小規模の社会福祉法人同士がまとまって事業ができるようになる「社会福祉連携推進法人」の制度が始まります。中小、零細の介護事業者も、こういった法人を新たに作り、協力し合うことで、移動のような課題にも取り組んでいけると期待できるでしょうか。
やる気と資金のある民間企業