取引DPF消費者保護法の解説-販売事業者情報の開示

2022年04月25日

(松澤 登) 保険会社経営

3――検討-3つのケース

1|フリマサイトで個人から購入した製品に大きな傷があったケース(ケースI)
ケース1ではメルカリやヤフーオークションといった通常は個人間で売買する取引プラットフォームにおいての法の適用がどうなるかが問題となる。個人が不要物を売りに出すようなケースでは、売主は一般には販売業者に該当せず法の適用はない。いわゆるC to C(Customer to Customer)取引である。問題は転売ヤーと呼ばれる、人気で品薄商品を販売開始と同時に買い占め、販売時に購入できなかった人に対して高値で転売する者の存在である。

ここで転売ヤーが販売事業者に該当するかどうかは、(1)営利目的である否か、(2)反復継続的に同種の行為を行っているかどうかについて、その者の意思にかかわらず、客観的に判断されるものとされている8。報道を見る限りにおいては、高値転売は営利目的であることを意味するように考えられ、また転売ヤーと目されるのは特定のアカウントであることから、反復継続的に転売を行っているものと認められる可能性があるものと考えられる9。仮にこのような解釈が行政・司法により示されれば、大きな影響を及ぼす。たとえばメルカリなどでは売主は本名登録こそ必要だが、物品販売時にはニックネームで行うことが可能で、かつ商品配送時にも匿名で送ることが可能となっていることもある。

ケース1では届いた商品に大きな傷があったとするものなので、売主の連絡先が分かっている場合は直接売主にキャンセルを申し出るか、取引DPF提供者に言うことになる。たとえば売主の連絡先が分からない、あるいは連絡先では連絡がつかないときには、買主は法3条に基づき取引DPF提供者に売主の連絡先を開示するよう求めることができる。ただし、法3条は努力義務であるので必ずしも取引DPF提供者が対応してくれるとは限らない。他方、損害賠償金が1万円以上のときには、買主は法5条に基づいて取引DPF提供者へ売主の連絡先開示請求を行える。法5条は義務規定であるので、取引DPF提供者は売主の連絡先を確認して買主に開示しなければならない。

なお、売主が通信販売事業者に該当する場合には、商品受取より8日以内には返品権(特商法15条の3)の適用があり、返品送料を消費者が負担することで返品することも可能である。
 
8 前掲注5と同じ
9 国会答弁では今後、消費者庁において検討がなされることとされている(前掲注5と同じ)。
2|取引DPF提供者が海外にあったケース(ケースII)
取引DPF提供者の所在は必ずしも日本とは限らない。また取引DPF提供者のプラットフォーム経由で購入した商品の売主が日本国内に所在するとは限らない。

この点、法律は適用範囲を国内に限っておらず、消費者である買主が国内にいる場合には適用があることとされている10。努力義務に過ぎない法3条関係はともかく、法5条に基づく販売業者情報の開示を取引DPF提供者に要求する権利の実現は、最終的には日本の裁判所で行うことになる。ただ、実際に取引DPF提供者が国内で応訴するのかどうかは個々事情によることになろう。また、取引DPF提供者が海外企業とすると、販売業者も海外に存在することが多いと思われる。消費者からのこれら販売業者への賠償請求については、日本の裁判所で国内法を適用して行うことができる(民事訴訟法3条の4第1項、法の適用に関する通則法11条2項)。しかし海外の販売業者は日本で訴訟活動を行うかどうかは不確実で、実際に実効的に海外の販売業者を相手取って賠償を勝ち取ることはコスト・手数の関係から容易ではないと思われる。

他方、法4条の内閣総理大臣による利用停止等要請についても海外の取引DPF提供者へ適用できるとするのが立案者の考えである。この点、先に制定されたデジタルプラットフォーム透明化法では経済産業大臣が特定デジタルプラットフォーム提供者に対して行う通知や勧告等の送達(通知)については、民事訴訟法第 108 条の外国においてすべき送達の規定が準用され、企業所在地国の大使に嘱託して行う(法第 20 条)という規定がある11。このような規定を持たない法はどの様に執行されるのだろうか、今後の蓄積を待ちたい。
3|購入した製品が自然発火したケース(ケースIII)
法4条では商品の表示について、安全性について優良誤認させるなどの問題があるときであって、消費者の利益を害されるおそれがあると認めるときに内閣総理大臣は利用の停止等の措置を取引DPF提供者に要請することができるとされている。この点、通常安全性の程度を表示するもの(浮袋や耐火用品など)であれば、表示が優良誤認と言いやすい。しかし、家電製品のバッテリーが通常の条件下で発火するなどの場合、表示が優良誤認ということを認定するのは難しいと思われる。この点、衆院の附帯決議でも「商品の安全性の判断に資する事項等を表示しないことをもって消費者が誤認する場合も含むことを解釈で明らかにする」ことを求めており、今後の経済産業省の対応が注視される。

4――おわりに代えて―残された課題

4――おわりに代えて―残された課題

今回の対応によっても対処が困難なものについていくつか触れておきたい。まず、C to C取引における取引の安全性確保である。消費者は消費者に対して保護責任を負わないとされる。ただ、知らない者同士の個人取引であるのに、取引が成立するのは、取引DPF提供者による信用が付加されているためである。この点に着目して何らかの規範定立ができないか検討の余地がある(衆院附帯決議一関係)。

次に不正な情報商材の販売規制である。SNSあるいは動画サービスの広告でも、「副業で月30万円確実」「利益が確実な投資」などの金商法等に違反すると思われる文言が踊っている。法は取引をプラットフォームで行っていないものは適用対象外となっているが、何らかの対処が必要と思われる(衆院附帯決議八関係)。

最後に、不正なレビュー関係である。ランキングは取引DPF提供者が表示するものであるが、その内容は購入者のレビューに基づく。このことを悪用して、販売業者がサクラによるレビューを書かせるといったことが横行している。人によっては評定で一番上がついているのは購入しないということもある。販売業者が直接表示しているわけではなく、取引DPF提供者が不正にランキングをつけているわけでもないが、ランキングそのものに信用が置けない状況になっている。ランキングについてはデジタルプラットフォーム透明化法でも開示という面から取り扱っているが、この点については対処ができていない。今後の課題である。

これらの点については、法により官民協議会が設置されるので、官民協議会の場でも議論され、改善がなされることを期待したい。

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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