2022年度の年金額は0.4%減額。現役賃金の下落と痛み分け

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.301]

2022年04月07日

(中嶋 邦夫) 公的年金

1月21日に、2022年度の年金額の改定が公表された。本稿ではその仕組みを概観し、次期年金改革への影響を考える。

1―年金額改定の仕組み

(1) 改定の全体像:実質価値維持と健全化策の合算
現在の公的年金額の改定(毎年度の見直し)は、2つの要素から構成されている。1つは、物価や賃金の変化に応じて年金額の価値を維持するという、年金額改定の基本的な意義の部分である(以下では、本来の改定という)。これに加えて、現在は年金財政を健全化している最中なので、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(いわゆるマクロ経済スライド)も加味される。

2022年度の改定では、本来の改定率が-0.4%、マクロ経済スライドは特例に該当して次年度へ繰り越されたため、年金額の改定率は-0.4%となった[図表1]。
(2) 本来の改定率(実質価値維持):現役賃金の下落と同じ-0.4%
本来の改定率は、物価の変動率と賃金の変動率の組合せで決まる[図表2]。

物価の変動率は、変動へ即座に対応するために前年(1~12月)平均の消費者物価指数(総合)の上昇率が使われる。2021年は年末にかけて物価が上昇したが、年平均は-0.2%となった。

他方で賃金の変動率は、前年の物価上昇率と2~4年度前の実質賃金変動率との合計が使われる。急変を避けるために3年平均となっており、今回はコロナ禍による2020年度の賃金下落が3分の1だけ影響して-0.4%となった。

この結果、2021年度の改正が機能し、年金受給者全体の本来改定率が現役賃金の下落と同じ-0.4%となった。
(3) マクロ経済スライド(健全化策):小幅ながら2年連続の繰越
マクロ経済スライドは年金財政の健全化に必要な方策だが、本来の改定率がマイナスの場合には実施されない[図表3]。本来の改定率によるマイナスとマクロ経済スライドによるマイナスという、ダブルパンチを避ける形になっている。

実施されなかった分は、以前の制度では実施されないまま流されていたが、年金財政の健全化を進めるために2018年度から次年度へ繰り越されている。今回は、当年度分の調整率-0.2%に加えて前年度からの繰越分が-0.1%あったが、本来の改定率がマイナスだったため、両者を合わせた-0.3%が2023年度へ繰り越された。

2―次期年金改革への影響:経済界等から調整完全適用の要望が高まる可能性

2022年度の年金額は、コロナ禍による現役世代の賃金下落を反映して2年連続で減額されることになったが、それと同時に、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(マクロ経済スライド)も2年連続で繰り越されることになった。

現時点の繰越は小幅であり、2021年度は2020年度と比べて賃金の水準が回復したことや昨年末から続く物価上昇などを考えれば、2023年度はある程度の調整が実施される可能性がある。しかし、仮に2023年度も調整が実施されなければ3年連続の繰越となり、繰越を撤廃し調整の完全適用を求める経済界等からの声が強まる可能性がある*

経済界は、厚労省が2020年12月に公表した次期改革の素案と同様の方策に対して、2019年時点では慎重な姿勢を見せていた。2023年度の年金額改定が、次期年金改革を巡る駆け引きを左右する可能性がある。
 
* さらに繰越が続いて繰越分が大きくなれば、物価が大幅に上昇した時に物価の伸びを大きく下回る率で年金額が改定される形になるため、政治的な論点となる可能性もある。

保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫(なかしま くにお)

研究領域:年金

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴

【職歴】
 1995年 日本生命保険相互会社入社
 2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
 2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

【社外委員等】
 ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
 ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
 ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
 ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
 ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

【加入団体等】
 ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
 ・博士(経済学)

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