働き方改革と健康経営-労働者の健康改善と生産性向上に繋がる「真の働き方改革」の実施を-

2022年03月25日

(金 明中) 社会保障全般・財源

■要旨
 
  • 政府は人口や労働力人口が継続して減少している中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張り生産性を低下させる原因になっていると考え、近年、働き方改革に積極的な動きを見せている。
     
  • 政府が働き方改革を実施する大きな理由の一つは、日本企業に残存している長時間労働の慣習を改善するためだ。長時間労働は、労働者の疲労回復に必要な睡眠や休養時間を減少させ、重大な健康障害を引き起こす可能性がある。
     
  • 最近は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために奨励したテレワークが長期化することにより、メンタルヘルスの不調を感じる人も増えている。その結果、「職場」や「通勤」等に重きを置いた「健康経営®*」を含めた従来型の福利厚生制度を「自宅」や「家族」を中心とする制度に少しずつ変える必要性が生じている。
     
  • 2021年9月に実施された「ニッセイ景況アンケート調査結果-2021年度調査」 によると、健康経営への取組み状況は、「関心はあるがまだ取組んでいない」が45.9%で最も多く、「健康経営優良法人の認定を受けている」と「関心があり既に取組んでいる」は、それぞれ6.6%と8.5%(合計15.1%)にとどまっていることが確認された。
     
  • 健康経営を取組むうえで課題になること(なると予想されること)について尋ねた結果、「何から開始・取組めばいいか分からない」が30.9%で最も高く、「人員がいない」(27.1%)、「メリットが分からない」(15.8%)を上回った(「特に課題はない」は24.3%)。
     
  • 今後、企業が働き方改革を実施する際には、生産性向上のみならず、労働者の健康や生活の満足度向上も考慮する必要がある。働き方改革が長時間労働の習慣を改善させ、従業員の健康改善や生産性向上に繋がる「真の働き方改革」になることを期待したい。
 
* 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


■目次

1――政府が働き方改革と「健康経営®」を推進
2――ニッセイ景況アンケート調査からみた健康経営への取り組み
3――健康経営が日本の企業に少しずつ普及
4――結びに代えて

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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