2|社会参加による死亡率低下や認知症予防への効果
次に、外出(移動)が持つ社会性に着目して、心身の健康への影響をみていきたい。
外出には、例えば「1人で散歩して、誰とも会話をせずに帰ってくる」というようなパターンもあるが、友人らと共に趣味の活動や外食をしたり、地域活動に参加したりすることも多い。または出かけた先の店で従業員らと会話することもあり、移動が、交流や社会参加を伴うことが多い。従って、高齢者の交流や社会参加に着目して、健康への効果を整理しておくことも重要である。
地域社会との関わりと、死亡率の関連を研究したのが安梅(2000)である
8。大都市近郊の農村に居住する60歳以上の住民1,069人を対象に、独自に開発した「社会関連性指標」について調査し、5年間追跡した。「社会関連性指標」とは、「生活の主体性領域」、「社会への関心領域」「他者とのかかわり領域」「生活の安心領域」「身近な社会参加領域」の五つから成るものである。これをスコア化し、死亡率との関連を分析したところ、社会関連性指標が低得点だと、死亡率が高くなる傾向が見られた。
次に、様々な身体・文化・地域活動の実施状況と、フレイルとの関連を研究したものが、吉澤ら(2019)の横断研究である
9。レイルは、要介護の手前の状態である。吉澤らは、ある市在住の要介護認定を受けていない高齢者73,341人を対象に、介護予防の一環として、厚生労働省が作成した基本チェックリストの項目と、スポーツや文化活動、社会活動の参加状況等に関する調査を郵送で行った。調査項目に欠損値のない49,238人を対象に分析し、フレイルやプレフレイルの判定には、基本チェックリストの回答を用いた。
吉澤らの調査では、高齢者が行っている活動を、ウォーキングや水泳などの「身体活動」、趣味の料理や手芸、囲碁・将棋、カラオケなどの「文化活動」、ボランティア活動などの「地域活動」の三つに区分し、フレイルとの関連を分析した。その結果、身体・文化・地域活動のいずれにおいても、実施していないグループは、週1回以上実施しているグループに比べて、フレイルになるリスクも、プレフレイルになるリスクも有意に高かった。文化活動や地域活動を行っている人も、フレイルやプレフレイルになるリスクが有意に低かったのは、これらを実施するために自然に外出し、身体機能を使っている可能性があると同研究は指摘している。
次に、交流と認知症等との関連も示されている。斉藤ほか(2015)は、2003年10月から約10年間、愛知県の6市町村に住む要介護認定を受けていない高齢者14,804人を対象としたAGES(愛知老年学的評価機構)プロジェクトのデータを用いて、他者との交流頻度と、要介護認定や認知症発症、死亡状況等について関連を調べた
10。その結果、同居以外の親しい他者との交流頻度が「月1回~週1回未満群」は、「毎日頻繁群」と比べると、性別、年齢、同居者の有無、身体状況、物忘れの有無、社会経済的状況等を調整しても、要介護認定に移行するリスクが1.36倍、認知症を伴う要介護認定に移行するリスクが1.39倍、死亡リスクが1.15倍高かった。また、交流頻度「月1回未満群」では、死亡リスクが、「毎日頻繁群」に対して約1.4倍高かった。
また、1|でも述べたように、竹田ら(2007)の調査でも、「友人宅訪問」や「他社の相談に乗る」、「病人を見舞う」など、高齢者が主体的に活動し、社会的役割に資する行動が、認知症予防と有意に関連していることが示唆されている。
これらの研究から、他者との交流や社会参加を積極的に行うことは、死亡率低下、フレイルやプレフレイル予防、認知症予防につながることが分かった。従って、高齢者にとって、交流や社会参加の機会を提供する「外出(移動)」の環境を確保することが重要だと言える。
8 安梅勅江ほか(2000)「高齢者の社会関連性評価と生命予後 社会関連性指標と5年後の死亡率の関係」『日本公衆衛生雑誌』第47巻第2号
9 吉澤裕世ほか(2019)「地域在住高齢者における身体・文化・地域活動の重複実施とフレイルとの関係」 『日本公衆衛生雑誌』第66巻第6号
10 斉藤雅茂ほか(2015)「 健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討 10 年間のAGESコホートより」『日本公衆衛生雑誌』第62巻第3号