期間前半の生産性、賃金、利益を表す一般労働者男性の労働投入シェアの各係数は、全期間での推計とおおむね同様に、生産性、利益については30歳代をピークとする逆U字型のカーブが確認できる。具体的には、男性の生産性を表す係数は、20歳代が▲4.8、40歳代が▲8.4、50歳代が▲1.3、60歳代が▲5.1(ただし、50歳代は有意ではない)と、すべての年齢区分でマイナスの結果となっている。利益の係数についても、20歳代が▲3.5、40歳代が▲6.6、50歳代が▲0.3、60歳代が▲2.2(ただし、50歳代は有意ではない)と、すべての年齢区分でマイナスの結果となっている。
期間前半から期間後半にかけての生産性の変化を表す、労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数は、20歳代と40歳代がそれぞれ2.3と4.3でプラスである一方、30歳代と50歳代がそれぞれ▲2.4と▲4.9でマイナスである。各係数の絶対値は20歳代よりも30歳代、40歳代よりも50歳代の方が大きく、期間後半にかけて、より高年齢者の生産性が大きく落ちている結果となっている。
賃金の変化については、20歳代が1.1と上昇しているものの、そのほかの年齢では、有意な結果は得られていない。
生産性と賃金のギャップである利益の変化については、40歳代で3.7と上昇している一方で、50歳代は▲4.0と40歳代の上昇分以上に低下している。
全体としてみれば、期間前半から期間後半にかけて、より高年齢労働者の生産性が低下することで、利益を押し下げる結果となっており、おおむね第二の仮説である高年齢労働者の生産性低下を通じて利益が押し下げられることが支持された。
生産性は、経験の蓄積により上昇する一方で、加齢による体力や気力の衰えにより低下する結果、中年齢をピークとする生産性カーブが描かれる。しかし、グローバル化が進み、情報の伝達スピードが速くなる中、スキルは陳腐化しやすい環境になっており、経験の蓄積によりこれまでと同程度の生産性の上昇が達成困難になっていると考えられる。特に、ITスキル等の新しいスキルの習得が生産性の維持に重要であるが、そうした変化に対応できない高年齢者の生産性はかつてと比べて相対的に低下している可能性がある。
全期間での推計結果と合わせると、労働者の高齢化により賃金が生産性と比べて割高な高年齢労働者の割合が増えることで企業の利益を押し下げることに加えて、近年ではより高年齢の労働者の生産性が下がっていることが、さらなる利益の押し下げ要因となっている可能性があると解釈できる。
一方、個別の年齢区分における生産性の変化は、全期間での推計結果同様、線形とはなっていない。
特に、期間前半での生産性が高い30歳代は、期間後半にかけて生産性が低下(▲2.4)している一方で、期間前半での生産性が低い40歳代(▲8.4)では、期間後半にかけて生産性が上昇(4.3)している。また、期間前半で比較的生産性が高い50歳代(▲1.3)では、後半にかけて低下(▲4.9)し、期間前半の生産性が低い60歳代(▲9.3)では期間後半にかけて生産性が上昇(2.2)している。
これらのことから、年齢といった目に見える属性だけではなく、特定の要因として観察が難しいコーホートの影響が指摘できるだろう。つまり、経済社会情勢等により生まれた年代がある程度生産性の水準に影響を与えており、5年ずらした期間後半では、生産性が高い一部の30歳代が40歳代になることで40歳代の生産性が上昇し、生産性が低い一部の40歳代が50歳代になることで、50歳代の生産性が低下する。また、生産性の高い50歳代が60歳代になることで生産性が上昇したと考えることもできる。
また、第三の仮説で述べたように、近年では、少子高齢化が進み若年層の人数が減る中、優秀な人材を獲得するために、各企業が賃上げに動いている。その結果、マンアワーを労働投入とした20歳代の男女の賃金の変化(労働投入シェアとダミー変数の交差項の係数)はそれぞれ1.1と4.5と、両者ともにプラスの結果となっている。
7――まとめ