一般労働者男性のすべての年齢区分における生産性の係数がマイナスとなっていることから、基準である一般労働者30歳代男性をピークとする逆U字型の生産性カーブを確認することができる。具体的には、労働投入をマンアワーとした結果について、20歳代男性の労働シェアの係数が▲4.1となっており、これはマンアワーシェアが20歳代男性から基準の30歳代男性に1%ポイント移動した場合、平均生産性が4.1%上昇することを示唆している。また、同様に、マンアワーシェアが基準の30歳代男性から40歳代男性、50歳代男性、60歳代男性にそれぞれ1%ポイント移動した場合、平均生産性は▲5.3%、▲1.9%、▲3.9%低下する。
産業別のマクロデータを用いたこの結果は、事業所ならびに企業のミクロデータを用いた川口他(2007)や永沼・西岡(2014)における中高年をピークとする逆U字型の生産性カーブの結果と整合的である。
頑健性のチェックのため、労働投入を労働者数に変更した分析についても、労働者数シェアが20歳代男性から30歳代男性に1%ポイント移動すれば、平均生産性は3.7%上昇し、30歳代男性から40歳代男性、50歳代男性、60歳代男性にそれぞれ1%ポイント移動した場合、平均生産性は▲5.2%、▲2.0%、▲5.4%低下する結果となっており、おおむねマンアワーを労働投入とした場合と同様の結果である。また、後述する賃金、利益の係数についても、労働投入をマンアワーとした場合でも、労働者数とした場合でも結果はほぼ同じであるため、以後、マンアワーを労働投入とした分析結果について解説する。
女性労働者については、出産などの理由により年齢と就業経験年数の関係が必ずしも強いわけではないため、川口他(2007)と同様、一部の年齢を除き有意な結果は得られていない。また、2019年の一般女性労働者のマンアワーシェアをみると、20歳代が4.5%、30歳代が4.4%、40歳代が5.9%、50歳代が3.9%、60歳代が1.2%と、一般労働者男性の20歳代(11.1%)、30歳代(16.2%)、40歳代(21.0%)、50歳代(15.5%)、60歳代(5.2%)とくらべて2分の1から3分の1以下となっており、生産性や賃金が高いサンプルのみが分析対象となるサンプルバイアスも生じている可能性がある。よって、こちらについても特に言及がない限り一般労働者男性の分析結果についてのみ解説する。
マンアワー当たりの賃金については、20歳代が▲0.12、40歳代が▲2.9、50歳代が▲1.2、60歳代が▲1.0とすべての年齢区分においてマイナスであるが、40歳代以外は有意ではない。
生産性と賃金の差である利益を直接推計した結果については、20歳代が▲3.7、40歳代が▲3.9、50歳代が▲0.6、60歳代が▲1.8とすべての年齢区分においてマイナスで、50歳代以外は有意である。利益についても生産性と同様に30歳代がピークとなっていることを示唆する結果である。
以上のことから、全体としては労働者の高齢化は、生産性を押し下げる一方で、賃金の減少にはそれほど繋がらず、生産性と比べて賃金が割高の労働者が増えることにより、利益を押し下げる要因になっていると解釈でき、第一の仮説である労働者の高齢化によって利益が押し下げられることが支持される結果となっている。
一方で、年齢別の生産性の係数の大きさに注目すると、40歳代が▲5.3、50歳代が▲1.9、60歳代が▲3.9となっており、40歳代の生産性は50歳代や60歳代よりも小さくなっている。通常、生産性カーブは線形であると考えられるため、生産性が30歳代をピークとすると、40歳代、50歳代、60歳代の順に小さくなるはずである。
Liu and Westelius(2016)などの先行研究においても、必ずしも推計された生産性カーブはきれいな線形にはなっていないものの、40歳代の生産性が相対的に低くなっているということは、推計期間における40歳代の生産性が低くなっている可能性と、50歳代以上の生産性が高くなっている可能性の2つのパターンが考えられる。
40歳代の生産性が低くなっている要因としては、現在40~50歳前後とされる就職氷河期世代が、バブル崩壊により非正規で雇用された割合が高く、また、正規雇用者についても継続的に十分な社内訓練を受けられなかったことなど、表面上の属性だけではコントロールできない要因が存在する可能性がある。
また、50歳代以上の生産性が高い理由としては、サンプルバイアスが考えられる。図6の男性の年齢別の就業形態をみてみると、今回の分析の主対象である正規雇用労働者の割合は、年齢が上がるにつれて下がっている。特に60歳以上においては、企業は65歳までの雇用確保への対応として7割以上の企業が再雇用を選択しており、非正規への転換が大きく進んでいる。結果として生産性が高い労働者のみが分析対象となり、生産性が過大推計されている可能性がある。賃金関数を推計した川口(2011)では、関数推定の留意点として、日本の賃金構造は定年退職の影響で60歳を境に不連続となるため、この不連続性をモデルに反映させるか、分析サンプルを 59 歳以下の労働者に限定するなどの対応が必要であると指摘している。生産性についても、雇用形態が変わることで、より生産性の低い職務へ移行したり、同じ職務であっても賃金が引き下げられた結果、職務遂行意欲が減衰したりする可能性がある。
その他、全体の推計結果にかかわることではあるが、就業形態(一般労働者か短時間労働者)や性、年齢別といった属性区分だけではコントロールしきれていない属性要因が存在する可能性も考えらえる。例えば、永沼・西岡(2014)では、非製造業については、教育年数が生産性にプラスの影響を与えていることを示しているが(製造業についてはマイナス)、本分析では、教育年数という属性を考慮できていない。