保健所は、中等症患者が宿泊療養へ移行する場合、また、軽症者及び無症候患者が自宅療養をする場合、さらに入院後回復し、自宅療養へ移るため病院から退院連絡を受けた場合には、療養中の陽性・陰性確認のPCR検査の手配や、一日2回の健康観察等を実施する必要がある。また、医療提供体制の逼迫を受けて、2021年2月には新型インフルエンザ等対策特別措置・感染症法および検疫法の一部が改正
2され、上述の対応に加え、外出制限に伴う日用品の提供や食事支援等に対する対応の必要性が生じた。そのため、新規陽性者の発生速度に対する保健所の対応が間に合わず、自宅療養期間が明けたころに保健所から健康管理の連絡があったり、自宅療養期間中の日用品や食事の支援が受けられないままとなるなど、罹患者が自宅療養に不安を抱く実態が次々に報告されることとなった
3,4。
この様な、保健所による迅速な対応を妨げる要因として感染者の健康観察を1人に対して毎日2回実施する必要があることがあげられる。新型コロナウイルス感染症の場合、軽症者が呼吸器を装着する必要があるほど急激な症状の変化が引き起こされる為、感染者に対する健康状態の頻繁な観察が欠かせない。しかし通常、保健所の感染症担当課は数人から10名程度であり、他課からの応援があっても健康状態の確認は医師や保健師などの医療職者が実施する必要があるため、対応できる人数が限られる。その上感染者は毎日増加することにより、一人につき14日間の健康観察期間が積み重なる。2020年4月頃の報告では、保健所は濃厚接触者や検体回収に一人で毎日50人ほど対応していたとの報告もあり
5、患者登録や検体回収の合間に健康観察を実施しても業務は終わらない状況であった。
健康観察の内容は、喀痰や咳嗽、嘔吐や下痢などの症状に加え、息苦しさの程度、表情や外見に通常時と異なる部分があるかなど一日2回、必要な方は一日4回のセルフチェックを踏まえ(参照:図1)、状態変化を捉える必要がある
6。そのため保健所による患者一人ひとりの健康観察にも一定時間必要であることが分かる。(参照:図2)
今後、自治体では、2021年度の採用職員を増員した神戸市などの雇用確保や
7、2021年8月頃に内閣府から情報提供があった健康観察アプリの導入などを進め感染者が増大した場合にも対応できるよう対応方策を練る必要があるだろう。
さらに、療養中の女性が、他者に感染させてしまったかもしれないという自責の念から自殺した事例も明らかとなっており
8、保健所は専門職による健康観察体制の整備に加え、行政の臨床心理士や精神保健福祉士などを活用して感染者のメンタルケアの強化も望まれる。
2 厚生労働省健康局長(2021)「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の改正について」(新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律関係)
3 朝日新聞デジタル(2021)「保健所からの連絡電話が来ない 職員「普通の状態じゃない」」
4 MBSNEWS(2021)「【特集】感染した23歳記者が自ら撮影した"保健所から連絡が来ない日々"「私だけ忘れられている?」家庭内感染の不安、味覚障害のつらさ」
5 日本経済新聞(2021)「保健所激務、連日深夜まで 検体回収や経路追跡に奔走」
6 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部(2021)「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養・自宅療養における健康観察における留意点について」
7 神戸市(2021)令和3年度神戸市職員(保健師)採用選考の変更について
8 西日本新聞me(2021)「コロナ療養中の女性が自殺「職場でうつしたかも」メモ残し」2021年5月24日