表4は今回のランキング(表1)で入賞したなかから、推し活に関するキーワードを抽出したものである。全てのキーワードがキーワード1「韓国」と重複しているが、推し活という側面からそれぞれの流行語を検証する。まず「INI」は、前述の通り『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』というオーディション番組からデビューした訳だが、彼らは全国各地から集まった101人の練習生の中から視聴者投票によって選考された。トレーニングやミッションなどデビューまでの過程を放送することで、視聴者は自身の「推しメン」(推してるメンバー)を見つける。それぞれのミッションが終わるごとに101人から選考のふるいにかけられる為、視聴者は自身の推しメンが脱落しないように専用アプリから投票するわけである。
昨今アイドルの性質が変化していると筆者は考える。アイドル全盛期であった70年代、80年代は、アイドル達はデビュー前にトレーニングやレッスンを積み、メディアに出る時にはタレントとしてほぼ完成されていたケースが多い。このように彼ら彼女たちが売れるためには事務所の大きさやマネジメント能力が必要であった。また、ステージから降りてもアイドルは言わば偶像として「ステージ裏の姿」を見せてはいけない存在であった。しかし、昨今のアイドルの多くは素人から発掘され、彼ら彼女たちが
成長していく過程までも一つのコンテンツとしてファンに提供されることが多くなった。また、それに伴い、従来のアイドルは外見や歌唱力といった比較的可視化(客観視)された基準でファンを獲得していたが、昨今のアイドルはトレーニング過程やその中で見られる人間模様をファンに見せる(見られてしまう)ことで、従来の外見や歌唱力といった可視化された基準だけでなく、アイドル自身の人間性もファンからの評価基準となっている。この人間性や内面性は視覚化されないため、人間性の良し悪しはファンの主観で判断されることになる。この可視化されないアイドルの良さを他人に
推奨したいというファン心理から「推す」という言葉は浸透していったと筆者は考える。
さて、AKB48の選抜総選挙のシステムや『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』の様に自身の推しが表舞台に立つために、ファンは投票という形で支えなくてはならない。従来のアイドルが事務所の力によって彼ら彼女たちのメディアでの出演範囲を広げていたこととは大きく異なり、昨今のアイドル誕生のシステムでは、ファンからの支持がなければ日の目を浴びる事すらできないのである。そのため、特に『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』においてファンは、自身の推しが選考に残り、彼らがテレビに出続けることを自分の事の様に一喜一憂していたようだ
13。かつて芸能人は憧れの象徴であったが、前述した通り参加者の大半は素人で元々は視聴者となんら変わらない若者であり、視聴者とは心理的距離が近いといえる。また、JC・JKを含むZ世代(1996~2012生まれ)を中心に応援消費や親近感消費への関心が高まっており、社会や他者への貢献意識が高く、応援したいと感じるものに消費する傾向がある。ここで言う応援とはSNSで応援したい対象の情報を拡散したり、動画配信アプリで投げ銭(お金やお金に換金することができるアイテムなどを配信者へ送るシステム)をしたり、クラウドファンディング等も含まれるだろう。このような他人のために何かしたいという若者の共闘・応援の心理と自身の投票が参加者の夢を叶えるための助けになるというオーディション・システムの親和性から、『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』は大ヒットし、そこからデビューした「INI」が流行したという事は何ら不思議な話ではない。同様にモノ部門1位の「Girls Planet 999」もファンからの投票で選考のふるいにかけられるオーディション番組で、アプリ部門5位の「UNIVERSE」を用いた投票システムであった。「INI」、「Girls Planet 999」、「UNIVERSE」の流行は、若者の「推す」という消費者心理にマッチしたことが要因であると筆者は考える。
モノ部門5位の「トレカデコ」そのものに関して言えば韓国で流行していたと言えるのかもしれないが、元々日本国内において推しのブロマイドや人形、アクリルスタンド等を持ち歩き写真に写り込ませる文化がオタクの間で成立しており、トレカデコもその派生に過ぎない(図1)。