(シナリオ別の金融市場見通し)
楽観シナリオでは、新型コロナウイルスの影響が早期に収束し、米国をはじめとする各国景気が順調に回復するため、メインシナリオと比べて欧米の利上げ開始時期が早まり、利上げ幅も拡大する。日本も物価上昇率が着実に高まり、2025年度には物価上昇率が2%に達するため、日銀の出口戦略開始(マイナス金利終了・無担保コール誘導目標復活)は同年度に前倒しされ、長期金利誘導目標もその時点で廃止となる。その後、2026年度からは順調な景気動向と物価上昇率の2%定着を背景に段階的な利上げが実施されることになる。
日本の長期金利は、日銀の誘導目標下にある2024年度までは比較的低位で推移するが、誘導目標が廃止される2025年度以降は利上げの段階的な実施や投資家のリスク選好(すなわち、安全資産である国債の需要減少)を受けて、メインシナリオよりも早期かつ大幅に上昇していくことになる。
ドル円レートについては、米国経済の順調な回復と利上げ早期化に伴う日米金利差拡大が大幅なドル高に繋がり、米利上げが打ち止めとなる2024年度には1ドル122円まで円安ドル高が進む。その後は日銀の出口戦略開始を受けて円高ドル安基調となるが、期間を通じて円売りの発生しやすいリスク選好地合いとなるうえ、日本の期待インフレ率が高止まりすることが実質金利の抑制に繋がることなどから、予測期間終盤にかけてメインシナリオよりも円安ドル高水準での推移となる。
ユーロドルについては、期間を通じてリスク選好的なユーロ買いが入りやすいうえ、EUの統合が進んでユーロの信認が高まっていくことから、米国の急ピッチな利上げが終了する予測期間中盤以降はメインシナリオよりもややユーロ高となり、予測期間末には1ユーロ1.30ドルまで上昇する。既述の通り、ドル円レートはメインシナリオよりも円安ドル高となるため、ユーロ円レートは大幅な円安ユーロ高となる。
悲観シナリオでは、変異株の発生などから新型コロナウイルスがなかなか収束せず、世界的に景気の低迷が続くため、米国では利上げが見送られ、政策金利は予測期間末にかけて現状の0.25%に据え置かれる。ユーロ圏も出口戦略に移れず、政策金利は長期にわたって現状のゼロ%に維持される。日本も物価の低迷が続くため、予測期間を通じて金融緩和が継続し、正常化の動きは生じない。
日本の長期金利は、日銀が円高進行と自然利子率低下への対応として、予測期間序盤に長期金利誘導目標を引き下げることで▲0.4%まで低下し、過去最低を更新する。中盤以降は、米長期金利の底入れや日銀による副作用への配慮によってマイナス幅がやや縮小するものの、予測期間末にかけてマイナス圏での推移が続く。
ドル円レートについては、米景気の悪化と米金利の低下を受けてドルが売られるうえ、リスク回避的な円買いが入ることで、予測期間序盤に円高ドル安が進行し、2022年度にかけて1ドル97円まで円高が進む。以降は米長期金利がやや持ち直すことでドルが底入れするが、予測期間末にかけて1ドル100円を若干割り込んだ水準が続く。
ユーロドルレートに関しては、景気低迷に伴うECBによるマイナス金利の深堀りやリスク回避的なユーロ売りからユーロ安圧力が強まり、予測期間序盤に1ユーロ1.06ドルまで低下し、その後も1.1ドルをやや下回る水準での低迷が続く。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円高ドル安が進むため、ユーロ円は序盤に1ユーロ103円まで急落し、その後も1ユーロ107円と大幅な円高ユーロ安水準が続くことになる。主要先進国通貨では円が独歩高の構図になる。