坊: 自動運転の取組みから、地域支え合いによる近助タクシー、利用者の方の健康増進や防災の力へと、様々な波及効果が現れてきました。近助タクシーから、更に地区の活性化につながってきたと言えるのではないでしょうか。
河合町長: まだ道半ばではありますが、志比北・鳴鹿山鹿地区では、近助タクシーを始めたことによって、地域の皆さんがまとまって、地域のことを考えてくれるようになりました。今、この地域に新しい観光スポットの建設が予定されています。永平寺町は風景がものすごいいいからと、企業さんの目に留まったんです。永平寺町は、来る前は、「ものすごい田舎」という感じがすると思うけど、来て見ると、福井駅から7、8kmぐらいだし、数年の内には中部自動車縦貫道が岐阜県までつながります。子どもに大人気の勝山市の恐竜博物館も、あわら市の芦原温泉も、永平寺町を経由して移動する。うちの町は嶺北のへそみたいなところで、交通利便性も高いんですよ。
ひと昔前だったら、企業立地の話があっても、地元には「人が住みにくくなる」というようなネガティブな反応がありましたが、今は「町と一緒に考えましょう」と積極的に動いてくれます。これは近助タクシーを導入したことによって、地域につながりができたからだと思っています。
僕がずっと思っているのは、住んでいる人が自分の町を自慢するようにならないと、地域の外から人が来るようになる訳がないじゃないですか。今、近助タクシーの地域は、新しい話があったら住民が自慢をするようになりました。自動運転以後、いろんな企業が来るようになり、「こんな良い景色のところはない」と言ってくれるのを、みんなが感じてくれるようになったのだと思います。
坊: 永平寺町は、自動運転の実用化が進む町として全国から注目されています。今後、自動運転と近助タクシーという二つの新しい交通サービスを基に、どのような町づくりに取り組んでいくお考えでしょうか。
河合町長: 人口減少と少子高齢化の流れは、これからも止まらないと思います。移動交通について、地域のお客さんは減っていく、供給側も人手不足になる、だけどそこには人が住んでいる。近助タクシーというのは、それを地元の皆さんで、助け合いながら運用していく仕組みです。
70歳前後の運転手さんと話をすると「自分ももうすぐお客さんになるよ」と言う。それはそれで良い。順番に支えていくことができれば良いんです。問題は、後継者が育っていけるかどうかです。最終的にそれが無理になった時に、自動運転やAIを使って補っていくことができれば良いのではないでしょうか。自動運転と近助タクシー、いずれも、これから大変になる地域の皆さんの足を支えていくという目的は一緒ですので、常に連動させていきたいと思います。
人口減少と少子高齢化が進行しても、結局やることは同じで、人間の優しさ、支え合いの精神が大切だと思うんですよ。実際に災害などが起きた時には、地域のつながりが大事になります。そういう時に、近助タクシーで培った地域のつながりが、力を発揮すると思います。
永平寺町は禅の町として、今でもシリコンバレーの方がよく来られます。いろんなクリエイターの方に来てもらい、坐禅を組んでいろんな発想をして頂くこともできる町です。永平寺町を、新しい技術と人の優しさが融合した町として発展させるため、これからも取り組んでいきたいと思っています。
(終わり)
(この対談は、2021年8月26日、福井県永平寺町山の「永平寺町四季の森複合施設」旧傘松閣(絵天井広間)で実施しました)
過疎地における自動運転の実装と実用化に関して…