星の明るさについては、「1等星」や「2等星」といった形で言い表されることは多くの方がご存知だと思う。こうした分類は、もともと紀元前150年頃、ギリシャの天文学者ヒッパルコス(Hipparchus)が始めたもので、夜空でもっとも明るい星を1等星、次に明るい星を2等星、そして眼で見える最も暗い星を6等星と名付けていた。
これが、現在は星の明るさがより精密に測定され、対数に基づいて定められる「等級(magnitude)」から分類されるものとなっている。以下で説明するように、等級の数値が小さいほど明るい星ということになる。星の明るさは、当然のことながら、「1」とか「2」とか言った不連続にしか存在するものではなく、無数に星があれば、その明るさはほぼ連続的に存在していることになる。従って、現在の等級の考え方に基づくと、例えば、「2等星」というのは、「等級が1.5以上2.5未満の範囲にある星」のことを指すと定義されることになる。
なお、等級は1未満、さらにはマイナスになることもある。さらには、もちろん6を超える等級もあり、例えば(我々には実眼では見ることができないが)「13等星」等と分類される星もある。例えば現在1等星として知られる星は21個あるが、「〇等星」の丸の数字が大きくなればなるほど該当する星の数は大きく増加していく構成になっている。
いずれにしても、ある星の「等級」がどうなるのか、あるいはどの「等星」に分類されるのかは、等級の定義において、起点となる原点の「0等級」をどう定義するのかによってくる。実は、等級にはいくつかの種類があり、また等級の原点にも主として2種類ある。
例えば、我々が通常、星図や星座早見盤などでみる等級は、地球から観測して得られる見かけ上の明るさによるもので「
見かけの等級(apparent magnitude)」と呼ばれるものである。なお、これとは異なる概念で定義されるものとして、ヒトの肉眼による観測で得られる見かけの等級としての「
実視等級(visual magnitude)」や、肉眼よりも近紫外線から青にかけての感度が高い写真の撮像から判定された等級としての「
写真等級(photographic magnitude)」というものがある。いずれにしても、天体の明るさは距離の2乗に反比例することから、これらの等級は天体までの距離に依存することになる。
これに対して、天体を地球から10パーセク(pc)(1パーセクは、約 3.085677581×10
16 m(約3.26光年)であることから、約32.6光年)の距離に置いたものと仮定したときの見かけの明るさで示された等級を「
絶対等級(absolute magnitude)」と呼び、天体の絶対的な明るさの指標となっている。
その他にも等級の種類があるが、いずれの等級においても、等級間の関係については、「
等級が1上がると、星の明るさは約2.5倍」になる。具体的には、等級が5等級小さくなると、明るさが100倍になる、すなわち1等級の差が
≒ 2.512倍に相当するように定められる。則ち、等級をm、明るさをℓで表すと、2つの等級と明るさの間に以下の関係式が成り立つ。
m
1-m
2=-2.5log
10(ℓ
1/ℓ
2)
これが、1856年に英国の天文学者ノーマン・ロバート・ポグソン(Norman Robert Pogson)が定義したもので、「
ポグソンの式」と呼ばれて、定着している。これにより、等級の原点(ゼロ点)、即ち「0等級」の明るさℓ
0を定めることで、等級は以下の式で定められることになる。
m=-2.5log
10(ℓ
1/ℓ
0)
さて、それでは等級の原点(ゼロ点)、即ち「0等級」の明るさとはどう定義されているのだろうか。
これについても時代によって変遷があり、現在も「
ベガ等級」と「
AB等級」の2種類の等級の原点が主に使われている。これらの詳しい説明はここでは省略させていただくことにするが、いずれにしても両者は波長が548.0 nm のときに一致するというようなものである。
なお、地球からdパーセクの距離にある天体の見かけの等級 m と絶対等級 M の間には、その定義から
m-M= -2.5log
10(10
2/d
2)=5 log
10d-5
という関係が成り立つことになる。「m-M」は「
距離指数」と呼ばれ、ある天体の絶対等級を何らかの方法で見積もることができれば、距離指数を使うことでその天体までの距離を見積もることができることになる。
因みに、主な天体の等級等は以下の通りとなっている。惑星のように明るさが変わるものは、その時々の明るさが等級で示される。例えば、金星は、もっとも明るくなったときは、マイナス4.3等級まで明るくなるようだ。等級は文献によっても必ずしも一致していないようなので、あくまでもこの図表の数値は1つの参考程度にみていただければと思う。