ここまでで説明したESG指数を機関投資家はどのように運用に取り入れているのだろうか。上述のように、GPIFではESG指数を選定しそれに基づくインデックス運用を導入している。
GPIFはユニバーサルオーナー(広範なポートフォリオを持つ大規模な投資家)である自身がESG指数を活用した投資を行うことが、日本企業がESG要素を改善し評価を高めるインセンティブとなり、長期的な企業価値の向上や投資収益の改善につながることが期待されるとしている。
こうした方針の下、GPIFは国内外の株式の運用でESGを総合的に考慮した指数、女性活躍や脱炭素に注目した指数といった7つのESG指数を運用に導入している(図表2)
3。GPIFは指数選定にあたって(1)ESGの要素を重視し、ポジティブスクリーニングにより指数構築を行っていること、(2)企業にESG情報の開示を促し、その情報に基づいて適切な評価を行えるようにESG評価手法の改善を行っていること、(3)ESG評価及び指数算出を行う会社のガバナンス・利益相反管理の点で評価を行った。
こうしたプロセスにより特定のテーマに偏らないよう、ESG要素を総合的に評価する指数や女性活躍に注目した指数など複数の指数を選定し、幅広いテーマについて働きかけを行うとしている。また、選定した指数について、リスク・リターンなどのモニタリングを実施する予定だ。
これらのESG指数はGPIFが中長期的な資産配分(政策アセットミックス)の基準として用いている指数(政策ベンチマーク)とは異なる指数である。このため、ESG指数に基づく運用はGPIFにとってスマートベータ運用
4の一種と位置づけられる。政策ベンチマークとESG指数の優劣は中長期的に判断すべきであり、ESG指数は中長期で見れば、上述のような企業価値の向上により単純な市場インデックスを上回ることが期待される。
インデックス運用は幅広い銘柄に投資を行うため、大きな資金の投資先となり得る。GPIFのESG指数による運用でも、対象となる金額は2021年3月時点で約10.6兆円まで拡大している。こうした機関投資家によるESG指数による運用は株式市場に対する影響も大きく、企業のESG取り組みを促進するきっかけにもなり得る。
また、GPIFをはじめとした公的年金は資産運用全体でESG要素を意識して投資を行うこととしており、その中でESG指数に基づく運用は、グリーンボンド等SDGs債券への投資と並んで、目に見えるESG投資として象徴的な位置づけにある。こうしたことからGPIFの今後の取り組みが注目される。