コラム

フラクタルは自然界でも多く観測されるって知っていますか-植物や各種の地形にも多くみられる-

2021年08月17日

(中村 亮一) 保険計理

関連カテゴリ

はじめに

以前の研究員の眼「フラクタルって知っていますか-1.26次元や1.58次元の図形ってどんなものなのか-」(2021.6.28)では、「フラクタル」という概念について紹介した。

「フラクタル」というのは、「自己相似性(部分が全体と相似な形を有している)」という性質を有する構造であり、これは抽象的な数学の概念であるが、実はこのフラクタルが自然界に広くみられることがわかっている。

今回の研究員の眼では、自然界で観測されるフラクタルの例をいくつか紹介する。なお、言うまでもないことだが、現実の自然界で見られるフラクタルについては、数学的な概念が示すような、無限に自己相似性を確認できるものとは限らない。それでも、複数段階での自己相似性が観測されるものが、近似的な意味合いも含めて「フラクタル」と呼ばれてきている。これによって、それらの自然界に見られる固体や自然現象等に関する有益な情報を与えてくれることになる。

ロマネスコ

まずは、以前の研究員の眼「フィボナッチ数列について(その3)-フィボナッチ数列はどこで使用され、どんな場面に現れてくるのか(自然界以外)-」(2021.3.26)の最後に紹介したカリフラワーの一種である「ロマネスコ」である。ロマネスコは明確なフラクタル図形をした野菜として有名である。

シダの葉

シダの葉は、細長い葉がたくさん集まって、1つの大きな細長い葉を構成している。さらにこれらの大きな細長い葉が集まって、より大きな葉を構成するというような構造になっていて、フラクタル図形になっている。



 

木の枝

木の枝にも、同様にフラクタル構造が観測される。

海岸線

リアス式海岸の海岸線も、その一部を拡大していくと新たなリアス式海岸が現れてくるという意味で、フラクタル図形になっている。

英国の数学者・気象学者等であるルイス・フライ・リチャードソン(Lewis Fry Richardson)は、戦争の原因に関する数学的な解析を行っている中で、2国間の国境線の長さが国によって大きく異なることに気付いて、測定単位によって測定結果が異なることを発見した。則ち、地形はユークリッド幾何学的な振る舞いをしないことを示した。彼は、英国西海岸の海岸線の次元が1.25であると計算したが、これはフラクタルの先駆的な研究の一つとみなされている。

山の地形

山脈には多くの峰があり、それぞれに頂がある。さらに、山の斜面にはいくつものうねりがある。加えて、山の稜線にもフラクタルが観測される。

例えば、ロッキー山脈の次元は約2.25であると計算されている。

雲の形

雲の形は様々だが、例えば、いわゆる「入道雲」と呼ばれる「積乱雲」は、強い上昇気流の影響で鉛直方向へ発達していく、極めて大きな雲であるが、フラクタル構造が観測される。このような雲の場合、熱の吸収、放出、反射に関係する表面積が極めて大きくなり、大気と地表の温度に大きな影響を与えることで、複雑な気候の変化を生み出す要因になっている。

大河

アマゾン川やナイル川といった大河もフラクタル構造を有しているとの見方ができる。

ある試算によれば、アマゾン川のフラクタル次元は1.85、ナイル川のフラクタル次元は1.4 と算出されており、アマゾン川の方が多くの流域をカバーする複雑な流れを有する川となっているようだ。

乱流

「乱流(turbulence)」というのは、流体の流れ場の状態の一種のことをいい、数学的には「ナヴィエ・ストークス方程式」と呼ばれる流体の運動を記述する2階非線型偏微分方程式の非定常解の集合、と定義されている。なお、乱流でない流れ場を「層流」というが、自然界で見られる流れや、工業製品に応用される流れは殆ど乱流であり、層流のほうがむしろ例外と言われている。

わかりやすい例として、水道の蛇口から流れる水で、蛇口を多くひねった時に急に乱れるように流れ出すケースが「乱流」で、少量でまっすぐに落ちてくる流れが「層流」となる。生活の中でみられる空気や水の流れはほぼ全てが乱流とされている。

この乱流のでき方の一つが、様々なサイズの渦が次々と小さくなっていくものが重なる階層構造となっている。ブノア・マンデルブロは、流体の中の乱流領域は、約2.4次元のフラクタルであると推定した。

銀河の分布

銀河の分布は、宇宙の進化と構造を調べる上での基礎となるが、ブノア・マンデルブロ等は、銀河は一様に分布しているのではなくて。階層的でフラクタル状に分布していると提唱した。現在、約3億光年程度の比較的小さいスケールでは、銀河は約2次元のフラクタル状に分布していると考えられている。10億ほどの星が集まって銀河になり、銀河が集まってクラスタを作り、クラスタが集まって超クラスタになっている。ただし、こうしたフラクタル性が無限に続くか否かに関しては、いまだ確認されていないようだ。

人体の中のフラクタル

人体(人間の体)における呼吸器、血管系、神経系においては、フラクタル構造が見られ、限られた体積の中で人間の生命機能を維持するために必要とされる各種のネットワーク(血管、神経等)ができるだけ多く、合理的かつ効率的に配置され、管理される仕組みになっている。

肺は非常に細かい管に枝分かれしていき、その末端に肺胞と呼ばれる薄い壁の袋が付いている。肺には約4億個の肺胞がぎっしりと詰まっている。成人の肺は、縦約30cm、横約13cm程度の大きさであるが、フラクタル構造のため、その面積は約80m2に達すると言われている。

血管構造

血液は心臓から動脈によって体全体に送り出されるが、動脈はさらに小動脈に枝分かれしていき、最後には毛細血管になっていく。フラクタル構造のため、血管の全長は10万kmにもなると言われている。

腸の内壁

腸の内壁もフラクタル構造となっている。

人間の腸は食物の栄養や水分を吸収する器官である。

腸の体積は腹に収まる程度、長さは7~9m程度、しかし表面積は小腸だけでもテニスコート1枚分はあって、相当の広さとなっているようだ。

神経回路

神経回路にもフラクタル構造が見られ、例えば記憶は、フラクタル構造で単純な神経回路網に埋め込まれているようだ。

ヒトゲノム

ヒトゲノムの3次元構造が高解像度で解析されてきているが、これも(フラクタル構造の1種である)ヒルベルト曲線と呼ばれるものに類似した、コンパクト形に折りたたまれていることが判明している。

最後に

今回は、自然界に見られる「フラクタル」について、その具体例をいくつか紹介してきた。
自然界の多くの場面で、(近似的な)フラクタルな図形が出現していることがわかる。逆にこのことから、コンピューター・グラフィックスにおいて、地形や植生などの自然形状を自動的に生成する際のアルゴリズムとして、フラクタルの考え方が用いられている。

なお、フラクタル構造がもともと自然界に存在しているというよりも、自然界の摩訶不思議な構造をモデル化して、フラクタル構造という単純な見方や表現で理解しようとしている、という言い方もできるかもしれない。

いずれにしても、フラクタルの概念は、純粋な数学や物理学や生物学といった自然科学の分野だけでなく、経済学等の社会科学の分野においても、幅広く研究が進められ、利用されてきている。

このシリーズの次回の研究員の眼では、こうしたフラクタルの社会等での応用例について紹介することとしたい。
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)

関連カテゴリ・レポート