パーパスとは、企業の存在意義であり、事業の目的、ミッション、使命のことである。筆者は、GAFAと日本企業が決定的に違うのは、まず大胆なビジョンを掲げて、それから高速でPDCAを回す点にある、と考える。しかし、巷間いわれるビジョンとは、おおむね「企業の未来の姿」であり、「自分たちが将来どうなりたいのか」を示すものである。それは自社利益の最大化につながりこそすれ、「それは何のために?」という根源的な問いにまで答えるものではなかった。社会において企業はどのような存在意義を持つのか。それがパーパスである。
このパーパスを実現するには、デジタル、グリーン、エクイティを単独で追求するだけでは事足りず、デジタル×グリーン×エクイティの三位一体で推進していく必要がある。
デジタルは基本的に、「もっと便利になる」ための手段。しかし、忘れてはいけないのは、小手先のデジタル化では意味がなく、企業の本質を進化させるデジタル化が必要だ、ということである。
コンビニエンスストアの本質が「便利」で「おいしい」だとするなら、コンビニエンスストアのデジタル化は、これをアップデートしたものでなければ顧客からの支持も得られない。アマゾンのマシーンラーニングやコンピュータビジョンといった先端テクノロジーを活用した無人コンビニ「アマゾン・ゴー」が評価されているのは、まさにその本質のアップデートを誤らなかったからである。
デジタル化が、こうした顧客のニーズを徹底的に満たすための手段であるなら、デジタル化には終わりがない。しかし、利便性を追求しすぎた弊害が、グリーンとエクイティに及んでいることを反省材料とし、グリーンとエクイティとの掛け算でデジタル化を推進する必要が生じているのである。
まずグリーンについては、デジタル化による省エネ、脱炭素化によって改善を図る。
筆者は、「自然との共生」の歴史の中に日本の活路があると考える。多くの自然災害を経験した我が国日本は、だからこそ自然との共生を可能にするシステムを築き上げてきたのである。環境問題がイノベーションのトリガーになり得ることを私たちは熟知していたのである。
SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みもこうしたイノベーションを後押しするものである。従来のSDGsは、本業とは別に行われる「社会貢献活動」にとどまっていたきらいがあったが、今では本業の一環として、会社の芯からSDGsに対峙している企業を、いくつも見つけることができる。
アップルのように、開発、生産、製造、物流など、すべてのバリューチェーンでSDGsを意識できれば、本業の発展とSDGsのへの貢献は同一線上に結ばれるのである。後述するように、有限の資源を再利用し、持続可能な経済成長を促す循環型経済への移行も望まれる。
もっとも、トヨタ自動車の豊田章男社長が「2050年のカーボンニュートラルは、国家のエネルギー政策の大変革なしに達成は難しい」旨を表したように、企業努力のみで解決できる問題ではなく、国を挙げての取り組みが急務であることも指摘しなければならない。
そして、エクイティにも取り組む必要がある。デジタルとグリーンによって「すべての人がともに成長できる」世界を目指すべきであるところ、そのために欠かすことができないのが「多様性と個性を受け入れ、活かす」価値観であり、態度である。
こうした世界観の実現のため、カギを握るのは循環型経済(サーキュラー・エコノミー)であると筆者は考えている。経済産業省は循環経済を「従来の『大量生産・大量消費・大量廃棄』のリニアな経済(線形経済)に代わる、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・保持し、廃棄物の発生を最小化した経済」「従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動」としている。
世界経済フォーラムが主催する「循環経済ラウンドテーブル」では、日本とオランダのリーダーが意見を交換した。日本の小泉進次郎環境大臣は「私が循環経済に向けて提案するアクションは、リデザインです。脱炭素化はエネルギーの仕組みを変えるだけではなく、私たちの社会経済システムをより循環経済にしていかないと達成できません」と語り、オランダ環境大臣からは、2030年までに天然資源の使用量を半減させることを目指しているオランダの取り組みなどが紹介された。
図2は「人×地球環境」中心主義にもとづいた循環型経済のグランドデザインを描いたものである。