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デジタル、グリーン、エクイティを三位一体で考える
CES2021において打ち出された価値観を3つのキーワードに落とし込むならば、それはデジタル、グリーン、エクイティであった。
デジタル化の流れが不可避であることについてはあらためて詳述するまでもないが、私たちの暮らしを便利にすることに終わらず、デジタル×グリーン×エクイティの三位一体の中で追求していく必要があるとの問題意識が、各社には感じられた。
例えばアマゾンにしても、ビッグデータ×AIを武器に究極のカスタマーセントリック(顧客中心主義)を追求してきたこれまでの姿から、変質があるように見て取れる。従来のアマゾンは、カスタマーセントリックを志向しながらも、アマゾンのカスタマーとして見なされない中小の小売業などついては、「アマゾンエフェクト」によって容赦なくなぎ倒していく負の一面もあった。
しかしここにきて、創業者で前CEOのジェフ・ベゾスは、教育支援や恵まれないファミリーを支援する慈善活動基金の「DAY1(デイワン)ファンド」や、気候変動対策を行う「ベゾス・アース・ファンド」を設立するなど、社会問題の解決へと舵を切ろうとしている。また株主らに宛てた年次書簡では、「われわれは『地球上で最も素晴らしい雇用主』がいる『地球上で最も安全な職場』になろうとしている」とベゾスは書いている。これまで「地球上で最も顧客中心主義の会社」を目指してきたアマゾンが、同時に「地球上で最も素晴らしい雇用主」にもなろうとしている。これは大きな、そして喜ぶべき軌道修正だと言えよう。
デジタル化の追求を止める必要はなく、また止めようもない。しかし、ボッシュのAIoTの取り組みに見るように、デジタル化がすなわち気候変動対策に、またデジタル化がすなわち格差の解消につながるようなあり方が、いま問われているのである。
グリーンについても同様である。気候変動対策が喫緊の課題であるのは言わずもがなである。しかし今、企業に求められているのはグリーン×デジタルの取り組みである。2021年3月に開催されたデジタルシフトサミットにおいて、日本のDXというこれまでにない難題に取り組んでいる平井卓也デジタル改革担当大臣と対談した際、次のような言葉が聞かれた。
「デジタル化が止まってしまうことは、おそらくこれから50年100年ないと思います。デジタル社会イコール電気を大量に使う社会ということですから、グリーンとデジタルは、もう絶対に不可分です。その電気をいかにグリーンに確保していくかという意味でも、これは各企業セットで考えないといけませんね」(デジタルシフトタイムズ2021年3月8日)
そしてエクイティである。アップルは2021年、「人種の公平性と正義のためのイニシアチブ」に1億ドルを拠出し、人種差別など不当な差別に苦しんできたコミュニティに支援することを発表した。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I:多様性と包摂性)が推進されている昨今であるが、近年はそこにエクイティを加えた「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)」を掲げる企業が増えてきている。新型コロナ禍が格差拡大を助長し、差別や貧困に苦しむ層ほど気候変動問題の影響を強く受けるという社会構造が明らかとなった今、多様な価値観や個性を包摂的に受け入れ、なおかつ公平・公正に扱うことができる世界が希求されている。
筆者は、いまやデジタル、グリーン、エクイティは個別ではなく、三位一体で考える必要があることを確信する。それによって初めて、人と地球環境がともに持続可能な未来を創造することができるからである。
2――「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代