1|感染症法の改正
改正感染症法は、2021年2月3日に成立した(2月13日施行)。
上述の通り、新型コロナには新型コロナ政令で感染症法が適用されていて、政令の期限は2021年3月27日までとされていた。これに対して、新たに定めた改正感染症法では、新型コロナウイルス感染症および再興型
15コロナウイルス感染症が、新型インフルエンザ等感染症の一類型として追加された(第6条第7項第3号、第4号)。つまり、新型コロナに関する感染症法の適用が法律本文で定められ、感染症法が恒久的に適用されるようになり、新型コロナ政令は廃止された。また、以下のような改正が行われた。
第一に、積極的疫学調査の実効化を図るべく、調査協力拒否に対して罰則が導入された。改正感染症法では、積極的疫学調査の対象となる者のうち、患者が調査協力を拒否した場合には、協力に応ずべきことを命ずることができる(改正感染症法第15条第8項)。ここでいう患者には、疑似症患者のうち、り患していると疑うに足る正当な理由のある者、および無症状病原体保有者をも含む(感染症法第8条第2項、第3項)とされている。協力の命令にあたっては所定の項目を記載した書面を交付しなければならない(改正感染症法第15条第10項、第11項)。命令を受けた患者が正当な理由なく答弁を拒否した場合や虚偽の答弁をした場合、あるいは正当な理由がなく調査を拒否・妨害・忌避した場合に30万円以下の過料を課すこととされた(改正感染症法第81条)。
第二に、入院等の措置についての改正がある。まず、新型コロナの患者のうち、65歳以上の者や呼吸器疾患を有する者など、省令で定める重症化のおそれがある患者には入院を勧告する(改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第1項、改正感染症法施行規則第23条の6)。入院勧告に従わない者には入院をさせることができる(入院措置、改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第3項)。
重症化のおそれがないとされる患者には宿泊療養・自宅療養の協力を求める(改正感染症法第44条の3第2項)こととされた。この点は、すでに運用としてなされていたが、今回明文の根拠を設けたものである。宿泊療養・自宅療養の協力要請に従わない者に対しては、入院の勧告および入院措置をすることができる(改正感染症法第26条第2項)。患者が入院勧告を受けて入院し、あるいは入院措置を受けて入院したときであって、その期間中に逃げた場合、または入院措置を受けたのに、正当な理由がないのに入院しなかった場合に新たにペナルティを課すこととした。具体的に違反者には、50万円以下の過料を課す(改正感染症法第80条)こととされた。
第三に、厚生労働大臣と都道府県知事の権限強化である。現行法では、厚生労働大臣は
緊急の必要があると認めるときは都道府県知事に対して指示ができる(感染症法第63条の2)とされていた。改正法では、このような場合に加え、厚生労働大臣は
都道府県知事が法令に違反している場合や事務管理や執行を怠っているときにも指示ができるとした(改正感染症法第63条の2第2項)。これは、都道府県によっては感染状況や取組体制等に差異があることなどを踏まえ、国として整合的な措置がとれるようにするとの趣旨のものである。また、入院病床などの配分が市区町村レベルでは効率的な分配に限界があることを踏まえ、都道府県知事の権限として、入院勧告・措置等の総合調整を行えることとされた(改正感染症法第48条の3)。
特徴的なのが、感染症法第16条の2の改正である。この規定は、厚生労働大臣および都道府県知事の医療関係者に対する協力要請を定めている。改正法は協力要請の対象者に民間検査機関を追加するとした。そして「協力要請」を行った対象者が正当な理由がなく協力しなかった場合は「勧告」を行うことができ、さらに勧告に従わない場合にはその旨を公表できるとした(改正感染症法第16条の2)。これは、当初、民間検査機関等の活用が進まなかったことや、民間検査機関が陽性判定を行っても、必ずしも公的検査機関での再検査や医療機関入院へとは連携されなかったことなどを踏まえた改正とされている。なお、この条文によって、新型コロナ患者の受け入れを民間病院に求め、従わない民間病院を公表することとも可能となった。しかし、民間病院に必ずしも新型コロナ患者を受け入れ可能な施設や専門要員があるとは限らないことからは、少なくとも実情を無視した一方的な勧告を行うことはないと考えられるであろう(図表4)。