貿易統計21年5月-輸出は全体としては堅調を維持するが、自動車輸出は低迷

2021年06月16日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.前年の反動で輸出入ともに高い伸び

財務省が6月16日に公表した貿易統計によると、21年5月の貿易収支は▲1,871億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲912億円、当社予想は▲2,011億円)を若干下回る結果となった。コロナ禍で前年に大幅に落ち込んだ反動で、輸出入ともに前年比で高い伸びとなったが、輸出の伸び(前年比49.6%)が輸入の伸び(同27.9%)を上回ったため、貿易収支は前年に比べ6,696億円の改善となった。

なお、自動車輸出は前年比135.5%の急増となったが、新型コロナの影響で20年5月に前年比▲64.1%の大幅減少となった反動によるもので、19年5月と比較すると▲15.6%の減少となっている。半導体不足の影響などから、自動車輸出は実態としては低迷している。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比38.6%(4月:同28.4%)、輸出価格が前年比8.0%(4月:同7.4%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比6.9%(4月:同1.2%)、輸入価格が前年比19.6%(4月:同11.4%)であった。
原数値の貿易収支は4ヵ月ぶりの赤字となったが、5月はGWで工場の稼働日数が少ない影響でもともと輸出量が少なく赤字になりやすいという季節性がある。季節調整済の貿易収支は431億円の黒字となり、4月の844億円から黒字幅が若干縮小したが、3ヵ月連続の黒字となった。

5月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=65.6ドル(当研究所による試算値)となり、6月の66.4ドルから低下した。足もとの原油価格(ドバイ)は70ドル台まで上昇しており、通関ベースの原油価格は6月に60ドル台後半となった後、7月には70ドル台まで上昇することが見込まれる。

2.欧米向けの輸出が回復

21年5月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比77.7%(4月:同37.8%)、EU向けが前年比38.8%(4月:同12.7%)、アジア向けが前年比21.9%(4月:同23.0%)、うち中国向けが前年比15.6%(4月:同29.3%)となった。
21年5月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比1.0%(4月:同4.5%)、EU向けが前月比6.1%(4月:同0.3%)、アジア向けが前月比▲1.8%(4月:同1.6%)、中国向けが前月比▲6.9%(4月:同2.0%)、全体では前月比1.7%(4月:同▲1.3%)となった。

輸出の牽引役となっていたアジア向けが減速する一方、1-3月期に落ち込んだ米国、EU向けが回復している。自動車の低迷を資本財、情報関連財の好調がカバーする形で、輸出は全体としては緩やかな増加基調を維持していると判断される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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