デジタル・プラットフォーマーと競争法(3)-Amazonを題材に

2021年06月09日

(松澤 登) 保険会社経営

■要旨

Amazonは世界的なデジタルプラットフォーム事業者で、オンラインで自社直販を行うとともに、Market Placeという第三者小売業者へのオンラインモールを運営している。売り上げ高はトヨタを超える巨大企業となっている。Amazonはその存在が巨大であり、市場で強い影響力を持つがゆえに欧米日それぞれで競争法・独占禁止法の問題が生じている。
 
欧州では、第三者小売業者の販売等のデータをAmazonが取得していること等が問題視され2019年7月から欧州委員会による調査が開始された。2020年11月に欧州委員会は、Amazonは第三者小売業者のデータを自社販売に不当に利用したとの予備的な見解を出した。引き続きAmazonの物流サービスに関する調査が行われている。
 
米国では、2021年5月にコロンビア特別区の法務長官室が、Amazonに対して、Amazonが第三者小売業者に求めている最恵国待遇条項は商取引を制限し、競争者を不当に排除するものであり、反トラスト法に違反するとして提訴を行った。
 
日本では公正取引員会が、Amazonが納入業者に対して求めてきた在庫補償契約などが優越的地位の濫用に該当するおそれがあると通知し、Amazonが自主的に被疑行為をとりやめるなどの確約計画を提出し、2020年7月に承認された。なお、確約契約は独占禁止法違反を認定するものではない。
 
Amazonは、他のオンラインモールを運営するデジタルプラットフォーム事業者との間で競争を行っているばかりではなく、Amazonのオンラインモールに出店している第三者小売業者とも競争している。Amazonは市場において強力な事業者であるがゆえに、その事業慣行が競争法上の問題となりうる。今後の各国の動きを注視したい。

■目次

1――はじめに
2――Amazonのビジネスモデル
  1|Amazon事業の概略
  2|Amazonの事業規模
3――欧州委員会による対応
  1|欧州委員会からの調査開始(第1次)
  2|欧州委員会からの調査開始(第2次)
4――米国コロンビア地区での訴訟提起
  1|訴訟の提起
  2|法務長官室の主張
5――日本における確約計画
  1|確約計画の認定
  2|確約計画のもととなった被疑行為の概要
  3|確約計画の概要
6――検討(欧州と米国の事例)
  1|デジタルプラットフォーム事業者の競争における特徴
  2|デジタルプラットフォーム事業者の独占禁止法上問題となる行為
  3|Amazonの欧州・米国の事例検討
7――おわりに

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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