世界各国の金融政策・市場動向(2021年5月)-ドル安が進展し年初水準まで戻す

2021年06月01日

(高山 武士) 欧州経済

1.概要:金融政策は様子見、為替はドル安が進展

5月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【金融政策】


【株価・対ドル為替レートの動き】
・株価はやや上昇、米国は冴えなかったが欧州を中心に伸びが目立った(図表1)。
・為替レートは前月に続きドル安傾向が継続している(図表2)。

 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する50か国・地域について確認する(2020年11月末よりMSCIの新興国としてクウェートが追加されている)。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:現行政策の維持

まず、5月の金融政策では、日本・米国・ユーロ圏といった主要地域においては決定会合が開催されず、英国など会合が開催された国では、ブラジルで2会合連続の利上げが行われたが、他の主要国では現行政策の維持を決めている。各国ともにコロナ禍からの回復期待が高まるなか、緩和的な金融政策を維持しつつ、正常化のタイミングを見計らっている状況と思われる。

なお、トルコではハト派のカブジュオール総裁を迎えた2回目の会合であったが、前回4月と同様に政策金利の維持を決定している。

3.金融市場:欧州圏で株価上昇、為替はドル安傾向が継続

MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比+1.4%、先進国が前月比+1.3%、新興国が前月比+2.1%となった。
国別の株価の動きを見ると、5月は対象国50か国中、38か国が上昇、12か国が下落という結果となった(図表3)。

今月は、米国で上旬に公表された4月のCPIインフレ率が予想以上の高さとなったことを受けて、売り圧力が強まった。株価はその後に回復したが、月末時点でも前月比ほぼ横ばいという展開だった(図表4)。一方で、高めの伸び率を見せた国も散見され、特に欧州ではオーストリア、ハンガリー、ポーランドなどで10%前後の高い伸び率を記録した。イタリアやスペインも好調で、EU諸国では、ワクチン接種加速による景気回復期待の高まりや景況感改善が株価を支えていると見られる。
なお、今月、前月比プラスの株価推移となる国が多いなか、ニュージーランドの株は下落が目立った。ウエイトの高いヘルスケア関連株で売り圧力が見られたほか、ニュージーランドではコロナ禍以降の株価回復が早かったという反動もあって、金融政策の正常化を見据えた利益確定の売りがあったと思われる。

通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比1.2%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比1.0%となり、4月に続きドル安傾向が継続、昨年末の水準まで戻す形となった2(前掲図表2)。

前述の通り、米CPI上昇率が高めの数値を記録し、インフレ警戒感が強まる一方で、FRBの金融緩和姿勢が堅持され米金利の上昇幅も限定的にとどまっていることから、ドル安傾向が続いたと見られる。
MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、39通貨中26通貨が対ドルで上昇(ドル安)、21通貨が下落(ドル高)となった(図表5)。ドル高・自国通貨安が進んだ国も多いが、自国通貨の下落幅は限定的であり、総じて見るとドル安・通貨高傾向が進んだと言える(図表6)。ドル安のサポート要因としては、欧州地域などワクチン接種が進む国では景気回復期待の高まり、南アフリカランドなどの新興国では国内インフレ圧力の高まりを受けた利上げ観測といったものが挙げられる。
 
2 名目実効為替レートは2021年5月25日の前月末比で算出。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2002年 東京工業大学入学(理学部)
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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