ではまず、一般に暗号資産とは何だろうか、という点から考えていきたい。
暗号資産はデータであり、コンピュータ上に記録されている数字の羅列である。
この数字の羅列は、例えばビットコインが暗号「資産」や仮想「通貨」と呼ばれていることから推測できるように、「価値の貯蔵」手段や「決済」手段などとして用いられることがある(ただし、例えばビットコインのドル建て価格は大きく上下に変動することから、価値貯蔵や決済よりも投機的な目的で保有されている印象がある)。そこで、少し暗号資産・仮想通貨の特徴を明確にするため、仮想ではない本物の通貨である現金や預金と比較してみたい。
例えば現金(紙幣や硬貨)はデータではなく、実際のモノである。例えばAさんが八百屋のBさんからリンゴを買いたいときはAさんがBさんにリンゴの価格分(100円)の現金と交換することで売買が完了する(決済される)。
一方、預金はデータである。通帳に印字すれば残高を見ることができるが、実体は銀行が管理するシステムの中にある数字の羅列である。例えばリンゴ10個を銀行振込で買う場合、Aさんはリンゴ10個を送ってもらう代わりに、銀行に対して価格分(1000円)の預金をBさん口座に振り込むように依頼する。銀行はAさんの口座残高を1000円減らし、Bさんの口座残高を1000円増やすことで売買が完了する(決済される)。
ビットコインはデータであるので、この意味では預金に近いと言えるだろう。ただし、
ビットコインは銀行のように口座残高を管理する特定の管理者がいるわけではない。これはビットコイン(およびそれに類似する暗号資産)の大きな特徴と言える。
ビットコインは、そもそも銀行のようにデータを管理する特定の人がいないのに、Aさんは100ビットコインを保有している、そのうちBさんに50ビットコインを送金(移転)する、といった保管や取引をすることができるのである。
例えば、次の疑問は単純だが、なかなか興味深い。
「銀行のような管理者がいないのに、Aの財布にあるビットコインは持ち主でなければ使えないのはなぜだろうか(管理者がAさんであると本人確認し利用を許可している訳ではないのに)」
「AからBへの送金(移転)取引はどのように承認されているのだろうか、不正取引をどのように防いでいるのだろうか(「管理者」が不正のないように利用者を見張り、取引承認や口座残高データの増減をしている訳ではないのに)」
前者の回答はマイニングと関係ない部分も多いので、解説は別の機会に譲りたいと思う
1。一方、後者の疑問はマイニングにも関連する。以下ではビットコインの特徴やマイニングの説明をするとともにこの疑問への回答についても解説したい。
なお、ビットコインの財布はAさん、Bさんという人に紐づいているのではなく、あくまでも電子上の宛先(データで示された住所であり、インターネットの「アドレス」やメールの「アドレス」のようなもの)である。実際には「Aさん」が電子上のAという電子財布(ウォレット)を作成
2し、そこに住所(宛先、アドレス)が書かれているのである。Aの住所宛に送られてきたコインからBの住所に50ビットコインを送金(移転)する、という形になっている。
2 財布の作成は、ビットコイン端末を設置しネットワークへの参加すること(「ノード」と呼ばれる)とほぼ同義であるため、本コラムでは、このノードの意味で用いる。ただし、最近は暗号資産の交換や保管(カストディ業務)を行う業者が増えており、ネットワーク参加者でなくてもこうした交換業者を通じてビットコインを保有することができる。
Aの電子財布を作成するのと、Aが銀行に口座開設するのとは似ているような感じもするが、実際には異なる。具体的に、預金データとビットコインを比較してみると、次のような違いがある
3(図表1)。
3 以下で説明するようにデータとして銀行口座データとビットコインデータには違いがあるが、例えば決済業者にビットコインの保管を委託し、利用するという立場から見ると、預金口座や証券口座を保有するようにビットコイン口座が保有できるため、利用上の感覚は類似する。
まず、預金は様々な人・企業の口座(残高や口座間の異動)データであり、銀行が管理している(図表1の最上段)。Aさんは自分の口座の残高情報や数年前までの取引履歴を知りたいときには、銀行に依頼して、銀行が保有しているデータの一部をAさんに開示するという手続きを踏んでいる。
送金や現金の引き出しは、銀行に対して(ATMカードなどで)Aさん本人であることを示した上でなされ、また、その取引・残高データは銀行が記録する。