以上のように、厳格な防疫管理でコロナ禍の封じ込めに成功した中国では、社会経済活動がほぼ正常化し、財政面・金融面からの景気支援を縮小しても、自然体で経済成長できる本来の姿を取り戻しつつある。そして、コロナ禍で落ち込んだ20年の経済成長率は前年比2.3%増に留まったものの、21年はその反動増で高成長となり、コロナ前の19年と比べた経済成長率は2年平均で5.0%増と、潜在成長力並みの成長軌道に戻る見込みである。
但し、中国経済のこれからを考えると、コロナ禍で緩んだ金融政策を引き締める過程で生じる不良債権増や住宅バブル崩壊に対する懸念、それにプラットフォーム企業に対する規制強化の悪影響といったリスク要因があるのに加えて、ふたつの波乱の種がある。
ひとつの波乱の種は米中対立でサプライチェーンが分断されることだ。米中両国は3月18~19日、バイデン米政権下で初となる外交トップによる直接会談を開催した。世界が注目する中で開かれたこの会談は、民主主義や人権といった価値観や安全保障をめぐる問題で激論を交わす異例の展開となった
2。中国経済への打撃が特に大きいのは、米国が同盟国・友好国を巻き込んで"経済安全保障"を旗印とした中国排除の動きを加速することだ。世界で一つだったサプライチェーンが、米国と中国の二つを軸としたサプライチェーンに分断されると、グローバリゼーションは大きく後退し生産効率の悪化は避けられない。折しも今年7月1日には中国共産党100周年祝賀式典が開催される。習近平総書記(国家主席)は重要談話を発表する予定で、そこでは「中華民族の偉大な復興」、「共産党による領導(指導)」、「祖国統一」などに触れることになるだろう
3。軍事パレードこそなさそうだが
4、バイデン米政権の反応は読み切れない。さらに今秋には中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)も控える。ここで米中対立がさらに激化すれば、米国が北京冬季五輪
5をボイコットするような事態に陥る恐れもあるだけに、注視する必要がある。
もうひとつの波乱の種は北京冬季五輪で海外から変異ウイルスが流入することだ。前述のように中国ではCOVID-19を早期に抑え込み、その後も散発的にクラスター(感染者集団)が発生したものの、感染のリンクを追える状態をキープしている。しかし、世界では依然として新型コロナウイルスが猛威を振るっており、新たな変異ウイルスが次から次へと発生する状況にある。今のところワクチンの有効性は維持できているようだが、耐性を持つ変異ウイルスが現れる恐れもある。また、中国では約2億回のワクチン接種を実施したが、14億人を擁する中国のワクチン接種率はまだ低く、集団免疫を獲得するのは早くても21年末になりそうだ
6。そして、北京冬季五輪に向けては世界から人が集まる機会が急増するため、海外から国内に変異ウイルスが流入する恐れも高まる。中国政府は水際対策を強化するだろうが、失敗すれば市中感染に陥る恐れもあり、予断を許さない。
2 米中対立に関しては「バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割」(研究員の眼、2021-4-9)を参照
3 2016年7月1日に開催された中国共産党95周年祝賀式典では習近平総書記がこれらの問題に言及している。なお、中国共産党新聞によれば中国共産党第1回全国代表大会が開幕したのは1921年7月23日だが、創建記念日は7月1日とされている。
4 中国共産党中央委員会が3月23日に公表した100周年を祝う行事のなかに閲兵式は無かった。
5 北京冬季五輪は、2022年2月4日から2月20日までの17日間、北京市に隣接する河北省張家口市を会場として開催される予定。
6 中国疾病予防制御センターの高福主任は3月31日、「国内の新型コロナウイルスワクチン接種率を来年初めか、できるなら今年末までに70%~80%にして、基本的に集団免疫を実現することを希望している」と語った(澎湃新聞)。