総務省の「労働力調査」によると、2021年2月時点の就業者数は6,697万人(前月差3万人増)、完全失業者数は203万人(前月と同数)、非労働力人口は4,157万人(前月差10万人減)であった
1。就業者数や完全失業者数、非労働力人口は、計測時点までに蓄積されたストックの数字であり、前月差はその増減である。ところで、ストックの増減の背後には、就業状態間での移行(フロー)がある。たとえば、失業者の増減の推移は、
「翌月の失業者数=今月の失業者数+今月の就業者のうち失業した人数(就業から失業へのフロー)+今月の非労働力人口のうち失業した人数(非労働力から失業へのフロー)-今月の失業者のうち就業した人数(失業から就業へのフロー)-今月の失業者のうち非労働力人口になった人数(失業から非労働力へのフロー)」
によって決まる。つまり、失業者数の増減は、失業へのフローと失業からのフローで決まる。ストックの変動の要因を探るためにはフローを分析することが有用であるはずだ。
総務省の「労働力調査」(基本集計)では、前月の就業状態別の今月の就業状態が調査されており、「今月及び前月の就業状態」(第I-7表、第I-8表)で結果が公表されている。ただし、第I-7、第I-8表に記載された今月および前月の各就業状態の人数と、基本集計第Ⅰ-1表などの統計表に記載され「労働力調査」の結果として発表されている各就業状態の人数(公表値)とは一致しない。標本調査である労働力調査は、調査対象を2か月連続で調査する一方で、調査対象の半数を毎月入れ替えている。他方、第I-7表、第I-8表は2か月連続で調査された標本のみを用いて推計する必要があり、これらの統計表の作成には標本全体の半分しか用いられないことなどが不一致の原因である。第I-7表、第I-8表をそのまま用いて分析すること自体は可能だが、公表値と第I-7表、第I-8表に記載された各就業状態の人数とのズレを補正することが多い。その補正手法はこれまでにいくつか提案されている
2。本稿では、これまでの研究でよく用いられてきた労働省(1986)が考案した手法を用いた
3。また、第I-7表、第I-8表は原数値でしか公表されておらず、単月での振れが大きいことなどから、先行研究でよく用いられている12か月累計値を算出した。12か月累計値は各月の値は過去11か月の結果に影響を受けている点に留意は必要だが、フローの傾向を捉えることは可能だ。
1 季節調整値
2 例えば、桜(2006)やLin and Miyamoto(2012)は労働省(1986)の手法を用いて、第I-7表、第I-8表を修正している。個票データを独自に再集計しフローのデータを作成した研究として、たとえば太田、照山(2003)、反復比例一致法を用いて表I-7、表I-8の修正を行った研究として、太田・玄田・照山(2008)がある。
3 労働省(1986)の手法をもとにした労働政策研究・研修機構(2020)の補正手法の説明に従っている。
3――各就業状態間での労働力フロー