不妊治療費に対する支援は、古くから自治体をベースとして実施されてきた
13。
国の動きとしては、2002年、少子化対策の一環として、厚生労働省から人工授精や体外受精等による患者の経済的負担を軽減する方針が打ち出され
14、保険適用拡大を含めた公的支援措置について議論が重ねられた。最終的には、医療費財源の確保や治療費の妥当性の検証、保険適用範囲の見極め、不妊は病気ではないといった考え方も根強い等の問題から、保険適用拡大は見送られ
15、同時期に厚生労働省で開催された「少子化社会を考える懇談会」での議論
16や国民を対象に行われた「少子化社会に対するご意見募集」における意見
17を踏まえて、不妊治療に対する支援として、「特定不妊治療費助成事業」が創設されるにとどまった(2004年度)
18。男性に不妊の原因があり、特定の処置を受けて精子を採取した場合には、これとは別に助成されることになった。
特定不妊治療費助成事業は、不妊治療の中でも費用負担が高額になりがちな体外受精・顕微授精を対象とし、自治体の指定した医療機関でこれらの治療を受けた場合に一定の条件のもと助成金を給付する制度である。創設当初は、合計所得が650万円未満の夫婦に対して、毎年10万円を限度に通算2年間助成するものだった。その後、通算助成期間の延長(5年)、年間の助成回数の引き上げ(2回)、所得制限の緩和(730万円未満)、1回あたりの助成額の増額(15万円。初回のみ30万円)等、助成内容は徐々に拡充された
19。
その一方で、2013年に開かれた「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」では、治療を受ける女性の年齢が上がるごとに、1周期あたりの生産分娩率が下がることや、妊娠高血圧症候群、前置胎盤等といった女性の健康を害するリスクが高まることを踏まえて、助成対象に上限年齢が設けられた(妻の年齢が43歳未満)。また、分娩に至ったケースの9割が6回までの治療で妊娠・出産に至っており、6回以上は回数を重ねても累積分娩割合の増加は緩慢となることを踏まえて、通算助成回数に制限を設ける(妻の年齢が40歳未満で通算6回、43歳未満で通算3回)等、助成対象を厳格化する動きが出てきた。
2020年9月に菅義偉内閣が発足し、少子化対策として不妊治療の保険適用拡大を表明した。保険適用拡大は、2022年度の診療報酬改定に向けて整備することとされ
20、それまでの暫定的な措置として、不妊治療のための助成制度を拡充することとなった。今回の拡充では、2回目以降の助成額の増額のほか、所得制限を撤廃したこと、助成回数を生涯で通算6回までから、子ども1人につき6回までとしたこと、事実婚も対象としたことがこれまでと大きく異なる。一方で、妻の年齢制限は、これまでと同じく43歳未満とされている。