コラム

韓国の新型コロナワクチン接種が加速化-接種開始13日目で累計接種者数が50万人を超える-

2021年03月12日

(金 明中) 社会保障全般・財源

韓国の新型コロナワクチンの接種速度が速い。2月26日から新型コロナワクチンの接種を始めた韓国では、3月11日0時現在まで累計500,635人(アストラゼネカ487,704人、ファイザー12,931人)に対してワクチンの1次接種が行われた。2月17日から接種を始めた日本の累計接種者148,950人(3月10日現在)を大きく上回っている。
韓国の新型コロナワクチンの接種者数(累積)を地域別にみると、京畿が106,542人で最も多く、次いでソウル(72,660人)、慶南(43,840人)、釜山(40,074人)の順であった。京畿の接種者数が多い理由としては、人口や療養病院が他の地域より多いことが挙げられる。現在、韓国では新型コロナウイルス感染者の治療病院の医療従事者、療養病院、療養施設に入院、入所している65歳未満の患者および医療従事者などに優先的にワクチンの接種が行われている。韓国政府は65歳以上高齢者の臨床データがまだ不十分だと判断し、当面の間は接種対象を65歳未満にする方針である。
韓国政府は2月末現在、国立中央医療院の中央予防接種センターを含めて全国に5カ所の「予防接種センター」を設けてワクチンの接種を実施しており、今後は「予防接種センター」を全国に250カ所(3月には21カ所に、5月以降は250カ所に)まで増やす計画である。
では、なぜ韓国は日本を上回るスピードでワクチン接種が行われているだろうか。その理由としては、日本は3月10日現在ファイザーのワクチンだけが承認・供給されていることに比べて、韓国はファイザー(2月3日特例収入承認1、3月5日承認)やアストラゼネカ(2月10日許可)のワクチンが供給されており、現時点でのワクチンの供給量が日本より多い点が挙げられる。日本ではアストラゼネカのワクチンが2月5日に、モデルナのワクチンが3月5日に承認を申請しており、5月ごろに承認されることが予想されている。
 
韓国政府はこれまでCOVAX配分量1000万人分、アストラゼネカ1000万人分、ファイザー1300万人分、モデルナ2000万人分、ノババックス2000万人分、ヤンセン600万人分、計7900万人分のワクチンを確保していると発表している。但し、他の国でもワクチンを確保するための競争が広がっており、今後ワクチンが適時に供給できない可能性も排除できない。
 
韓国が現時点で日本より新型コロナウイルスワクチンの接種が速い2番目の理由としては、両国のワクチン接種の対象者が現時点で異なる点が挙げられる。日本の場合3月10日時点のワクチン接種の対象者はワクチンの「先行接種」に事前同意している医療従事者約4万人と医療従事者(約480万人、患者を搬送する救急隊員や患者と接する業務を担当する保健所職員を含む)に制限されている。一方、韓国は療養施設の入所者や従事者、そして医療従事者など対象者の範囲が日本より広く、現時点では日本よりワクチンの接種対象者数が多いと考えられる。
 
3番目の要因としては、韓国は日本が適時に確保できなかった、ファイザーワクチンなどの新型コロナウイルスワクチン接種のために使われる特殊型注射器4000万本を1月末に契約完了し、確保した点が挙げられる。特殊型注射器を使用すると、通常の注射器では1瓶で5回しか接種できないファイザー製の新型コロナウイルスワクチンを6回接種できる。さらに、韓国の医療機器メーカーは新型コロナウイルスワクチン接種用の特殊注射器の量産を2月からスタートしており、3月からは生産量を月2000万個まで増やす計画である。
 
以上のような理由により、現時点では韓国の新型コロナウイルスワクチンの接種者数が日本を上回っているものの、ワクチンの確保量では日本が韓国を上回っており、今後ワクチンの対象者が段階的に拡大されると、日本でも韓国以上の速さでワクチンの接種が行われると考えられる。但し、より効率的にワクチンを接種するためには、ワクチンが節約できる特殊注射器が足りない問題を解決する必要がある。ワクチンとともに特殊注射器が安定的に供給されれば、国民の健康を守ると共にオリンピックを成功的に開催する確率も高まる。幸いにテルモは9日米ファイザー製の新型コロナワクチンを1瓶から7回接種できる注射器を開発したと発表した。同社は3月末から国内で特殊注射器を量産し、まず約2000万本を2022年3月末までに生産する予定である。但し、供給量が多くないことは心配である。
 
日本のマスコミによると、日本政府はすでに新型コロナワクチン接種用の特殊注射器約8千万本を購入したいという要望を韓国に伝えているようだ。筆者としては韓国政府が日韓関係の改善のために、また日本のオリンピックが成功裏に開催されるためにも、韓国の医療機器メーカーが開発・生産している特殊注射器を無条件で日本に供給することを望む。両国民の大事な命を守るために、両国が協力する必要性が益々高まっていることを日韓の政治家らがぜひ理解していただきたい2
 
1 正式に承認されるまでには医療従事者に限って接種が行われる。
2 本稿は、「韓国における新型コロナワクチン接種が加速、接種開始7日目で累計接種者数が22.5万人を超える」ニューズウィーク日本版 2021 年 3 月5 日 に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/03/225.php

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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