2017年7月に英国の金融監督当局であるFCA(Financial Conduct Authority:金融行為規制機構)は、グローバルな金融取引において非常に重要な役割を担っている金利指標であるLIBOR(London InterBank Offered Rate)を2021 年12月末に廃止することについて言及した。LIBORは変動金利ローンや変動利付債、並びに、金利スワップなどのデリバティブの金利指標として用いられることが多く、LIBORの世界的な市場規模は2014年時点で約220兆ドル程度とも言われている
1。
2012年頃からLIBORの不正操作問題に端を発して、LIBORの金利指標としての信頼性に疑義が生じたことから、世界的に改革が進められている状況にある。具体的には、LIBORは指定された銀行によって報告された金利データに基づいて決定される仕組みだが、可能な限り実取引のデータに基づいて決定される新金利指標に変更する方向で議論が進められている。例えば、LIBOR(ユーロの場合はEURIBOR)
2に変わる新金利指標として、日本円ではTORF(Tokyo Term Risk Free Rate)、TONA(Tokyo Overnight Average Rate)やTIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)、米ドルではSOFR(Secured Overnight Financing Rate)、ユーロではESTER(Euro Short Term Rate)、英ポンドではSONIA(Reformed Sterling Overnight Index Average)、スイスフランではSARON(Swiss Average Rate Overnight)などが候補して挙げられている。
LIBORを参照している既存取引についてフォールバック
3にサインした場合、LIBORの公表主体や規制当局が公表停止(公表停止トリガー)や公表停止の予定(公表停止前トリガー)を発表するなど
4すれば、LIBORから新金利指標に移行することになる。ISDA(International Swaps and Derivatives Association:国際スワップデリバティブズ協会)は、LIBOR公表停止に伴う新金利指標への移行の際にリスクフリーレート複利(オーバーナイト物、後決め)を選択する場合、過去5年間の中央値の値を移行後の金利指標にスプレッド調整として足すことを支持している
5。
2020年11月18日にLIBORの運営を行うIBA(ICEベンチマーク・アドミニストレーション)を傘下に持つICE(インターコンチネンタル取引所)は、英ポンド、ユーロ、スイスフラン、日本円のLIBORに関して、2021年12月末の公表停止の意向について協議を始めるとしていた
6。この文書において米ドルLIBORについて言及がなかったことから廃止を延期するのではないかとする観測があった。
2020年11月30日に、ICEが米ドルLIBORの運営に関して、1週間物と2カ月物については2021年12月末、オーバーナイト物、1カ月物、3カ月物、6カ月物と12カ月物については2023年6月末に公表停止する案を提示した
7。主要な米ドルLIBORの公表停止を後ろ倒しにする案になっている。
同日、LIBORの規制当局であるFCAはICEによる延期案を支持する声明を発表している
8。米金融当局はICEによる公表停止案の提示と同時に、2021年12月末までに締結される新規取引については(1)LIBOR以外の金利指標を使用する、または、(2)LIBOR廃止後の取り扱いを明確に定義した契約文言(フォールバック)を含むべきとする声明を出している
9。廃止時期が延期されるにしても、米ドルLIBORに関連した取引を新規で取り組むことは推奨されていない。
また、ISDAによると、これらのICEや規制当局による協議開始等の発表自体は、公表停止トリガーや公表停止前トリガーには該当しない
10。
1 「LIBOR公表停止に金融機関はどう対応するべきか」(金融庁、2020年1月24日)
2 EURIBOR等のLIBOR以外の金利指標も廃止の対象となるため、一般にIBORと呼ぶこともある。
3 LIBORを利用している契約について、LIBORの恒久的な公表停止などの取り扱いについて取引者間であらかじめ合意しておくこと。フォールバック以外に、契約変更(LIBORの恒久的な公表停止前に別の金利指標に変更する)で対応する方法もありうる。
4 公表停止トリガーや公表停止前トリガー以外のやり方で、契約の当事者間の合意に基づいてトリガーの発動条件を設定することも可能である。
5 詳細はBloombergによるIBOR Fallback Rate Adjustment Rule Bookを参照されたい。
6 "ICE Benchmark Administration to Consult On Its Intention to Cease the Publication of GBP, EUR, CHF and JPY LIBOR," ICE, 18 November 2020
7 "ICE Benchmark Administration to Consult on Its Intention to Cease the Publication of One Week and Two Month USD LIBOR Settings at End-December 2021, and the Remaining USD LIBOR Settings at End-June 2023," ICE, 30 November 2020
8 "FCA response to IBA’s proposed consultation on intention to cease US$ LIBOR," FCA, 30 November 2020
9 "Federal Reserve Board welcomes and supports release of proposal and supervisory statements that would enable clear end date for U.S. Dollar (USD) LIBOR and would promote the safety and soundness of the financial system," Board of Governors of the Federal Reserve System、"Statement on LIBOR Transition," Board of Governors of the Federal Reserve System, Federal Deposit Insurance Corporation and Office of the Comptoller of the Currency
10 "ISDA Statement on IBA and UK FCA Announcements on LIBOR Consultations," ISDA Press Releases, 18 November 2020、"ISDA Statement on IBA, UK FCA and Federal Reserve Board Announcements on US Dollar LIBOR Consultation," ISDA Pres Releases, 30 November 2020
2――米ドルLIBOR公表停止の延期案を受けた市場の反応