ワクチンの開発動向が円相場を左右する~マーケット・カルテ9月号

2020年08月17日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

ドル円は7月末に1ドル104円台前半まで下落した後、米経済指標改善を受けたドル買いや、コロナワクチンの実用化期待に伴うリスクオンの円売りなどから持ち直し、足元では106円台後半にある。

ただし、目先はドル安圧力の再発に警戒が必要になる。FRBは早ければ9月の会合において、ゼロ金利の長期化を強く示唆する「フォワードガイダンスの強化」に踏み切ると見込まれる。既に織り込まれつつあるとはいえ、市場でドル安材料と見なされる可能性が高い。一方で、対ユーロでのドル買いがドルの下支えになりそうだ。投機筋のユーロ買いポジションは過去最高を更新しており、いずれ利益確定に伴うユーロ売りドル買いの発生が見込まれる。従って、3か月後のドル円の水準は現状程度と予想している。

なお、11月に行われる米大統領選の影響は限定的と見ている。支持率で優位に立つバイデン氏が掲げる公約のうち、増税はドル安材料だが、政策の予見性が高まることや国際関係改善が期待できることには(リスクオンの)円安材料の側面がある。一方で、今後はコロナワクチンの開発動向が市場を左右しかねない点には留意が必要になる。不透明感が強く市場の見方が定まっていないだけに、今後実用化が順調に進めばリスクオンの円売り材料になるが、開発が難航すればリスクオフの円買い材料になる。

ユーロ円は今月に入っても上昇傾向が続き、足元では126円台前半に達している。復興基金合意の余韻が残るなか、ユーロ圏の経済指標改善が追い風となった。ただし、ユーロはこれまでの急上昇によって過熱感が高まっているとみられる。既述の通り、投機筋のユーロ買いポジションが溜まっているだけに、今後はユーロ売りが優勢になる可能性が高い。3か月後は現状比でややユーロ安と見込んでいる。

長期金利は、国債需給緩和への警戒による米金利上昇やワクチン実用化への期待などを受けてやや上昇し、0.0%台半ばをうかがう水準にある。一方、今後はフォワードガイダンス強化による米金利低下が、一旦金利低下圧力として波及する可能性が高い。3か月後の水準は現状比でやや低下とみている。
(執筆時点:2020/8/17)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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