新型コロナウイルスのパンデミックにより、不確実性という概念が再び注目を集めている。不確実性が定義されたのは、スペイン風邪が流行した100年ほど前だ。米経済学者のフランク・ナイトが1921年の著書『Risk, Uncertainty and Profit(リスク、不確実性および利潤)』において、リスクと不確実性を区別した。双方とも不確かな事象を指すが、リスクは先験的または統計的に計量可能であるのに対し、不確実性は計量できない。換言すれば、リスクはその確率分布を求めることができ、将来の発生確率や期待リターンなどを推定することができるが、不確実性は確率分布がわからず、数量化が困難である。
2007年からの世界金融危機において注目を集めた不確実性の類型の一つが、ナシーム・ニコラス・タレブが2007年の『The Black Swan: The Impact of theHighly Improbable(ブラック・スワン:不確実性とリスクの本質)』で提示したブラック・スワン(黒い白鳥)である。ブラック・スワンは「予測ができない」、「めったに起こらない」、「起これば大きな影響を及ぼす」事象だ。ブラック・スワンという名前は、豪州で黒い白鳥が発見されたことで、白鳥は白いものという、それまで長い間信じられてきた常識が覆された話に由来する。想定外の発見が、全ての白鳥が白い旧世界と黒い白鳥が存在する新世界を隔てる。つまり、ブラック・スワンが飛来した後には、ニューノーマル(新常態)が訪れるのである。
*3 Lawrence H. Summers. (2016). Secular Stagnation and Monetary Policy. Federal Reserve Bank of St. Louis Review, Second Quarter 2016, 98(2), pp. 93-110. *4 水野和夫(2016)『資本主義の終焉と歴史の危 機』集英社