米個人所得・消費支出(20年6月)-現金給付の終息で所得は前月比▲1.1%なった一方、消費支出は同+5.6%と市場予想を上回る

2020年08月03日

(窪谷 浩) 米国経済

1.結果の概要:個人所得は市場予想を下回る一方、個人消費は予想を上回る

7月31日、米商務省の経済分析局(BEA)は6月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲1.1%(前月改定値:▲4.4%)と▲4.2%から小幅に下修正された前月からマイナス幅が縮小した一方、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲0.6%は下回った(図表1)。個人消費支出は前月比+5.6%(前月改定値:+8.5%)と、+8.2%から上方修正された前月から伸びが鈍化した一方、市場予想(+5.2%)は上回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)も+5.2%(前月改定値:+8.4%)と、+8.1%から上方修正された前月から伸びが鈍化、市場予想(+5.0%)は上回った(図表5)。貯蓄率1は19.0%(前月:24.2%)と、前月から▲5.2%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.4%(前月:+0.1%)と前月を上回った一方、市場予想(+0.4%)に一致した。一方、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は+0.2%(前月改定値:+0.2%)とこちらは+0.1%から上方修正された前月、市場予想(+0.2%)に一致した(図表6)。前年同月比では、総合指数が+0.8%(前月:+0.5%)と前月を上回った一方、市場予想(+0.9%)は下回った。コア指数は+0.9%(前月:+1.0%)と、こちらは前月、市場予想(+1.0%)を下回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:経済対策の効果剥落で消費の伸びが鈍化

6月の個人消費は市場予想を上回ったものの、前月から伸びが鈍化した。これは、高い伸びとなった前月からの反動と言う面はあるものの、政策効果の剥落に伴う可処分所得の減少が大きいとみられる。
実際に、可処分所得は家計への直接給付が終息に向かっていることに伴い、2ヵ月連続で減少しており、所得押上げ効果は剥落している。

また、政策効果の剥落に加え、6月以降新型コロナの感染拡大に拍車が掛かっており、感染拡大が深刻化している地域では経済活動の再開が遅れるなど、消費への影響が懸念されている。このため、7月の消費はさらに伸びが鈍化しよう。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数が4月の+0.5%を底に2ヵ月連続上昇したものの、物価の基調を示すコア指数は4月から底這いとなっており、物価上昇圧力は高まっていない。また、両指数ともにFRBの物価目標(2%)を大幅に下回っているほか、FRBの物価見通しが22年でも+1.7%に留まるなど、物価目標の達成時期が見通せない状況は続こう。

3.所得動向:現金給付の支給減少で、移転所得は2ヵ月連続減少

個人所得は2ヵ月連続で減少したが、政府による社会保障関連の補助金などの移転所得が▲8.9%(前月:▲17.5%)とマイナス幅は縮小したものの、前月に続いて大幅なマイナスとなったことが大きい(図表2)。これを金額ベース(前月比、年率)でみると、6月の移転所得の減少幅▲4,844億ドル(前月:▲1兆1,535億ドル)のうち、「家計への直接給付」が▲5,656億ドル(前月:▲1兆9,826億ドル)と減少分の大宗を占めていることが分かる。一方、移転所得のうち「失業保険給付」は6月が+1,107億ドル(前月:+8,332億ドル)と増加しており、移転所得の減少分を一部相殺したことが分かる。もっとも、このうち+854億ドルは7月末が期限となっていた失業保険の追加給付分(週当たり600ドル)が占めており、期限延長法案の審議が滞っているため、8月に一旦支給が停止することで失業保険の給付額は大幅に減少しよう。

一方、賃金・給与は前月比+2.3%(前月:+2.5%)と雇用回復を反映し堅調な伸びとなった。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、6月の名目が▲1.4%(前月:▲5.1%)、価格変動の影響を除いた実質ベースが▲1.8%(前月:▲5.2%)となった(図表3)。

4.消費動向:財・サービスともに前月から鈍化も堅調な伸びが持続

6月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+6.4%(前月:+14.1%)、サービス消費が+5.2%(前月:+5.8%)と高い伸びとなった前月からは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した(図表4)。

財消費では、耐久財が+8.7%(前月:+28.9%)、非耐久財が+5.2%(前月:+7.6%)となった。

耐久財では、自動車・自動車部品が+7.1%(前月:+43.2%)となったほか、家具・家電が+8.6%(前月:+22.8%)、娯楽財・スポーツカーが+6.5%(前月:+21.1%)といずれも前月の2桁の伸びから鈍化した。

非耐久財では、食料・飲料が▲0.5%(前月:+2.8%)と前月からマイナスに転じた一方、衣料・靴が+31.6%(前月:+36.6%)と好調を維持したほか、ガソリン・エネルギーが+20.3%(前月:+18.8%)と前月から伸びが加速するなど、まちまちの結果となった。

サービス消費は、娯楽サービスが+37.3%(前月:+8.3%)と前月から大幅に伸びが加速した一方、外食・宿泊+18.8%(前月:+28.3%)、医療サービス+14.0%(前月:+24.3%)、輸送サービス+10.6%(前月:+18.0%)、住宅・公共料金が横ばい(前月+0.3%)と前月から伸びが鈍化した。

5.価格指数:前月比ではエネルギー価格が6ヵ月ぶりに物価を押し上げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+4.6%(前月:▲2.1%)と6ヵ月ぶりにプラスに転じた(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.5%(前月:+0.8%)と前月から伸びが鈍化も、6ヵ月連続でプラスとなった。

前年同月比では、エネルギー価格指数が▲12.8%(前月:▲18.2%)と3ヵ月連続で2桁のマイナスとなった(図表7)。一方、食料品価格指数は+5.2%(前月:+4.6%)とこちらは17年7月以来36ヵ月連続のプラスとなったほか、11年11月(同+5.3%)以来のプラス幅となった。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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