これまでの政府の遠隔教育の施策は、対面教育の補完を実現するべく展開されてきた。例えば、2015年に高等学校における遠隔授業が解禁された際に大きく期待されていたのは、離島や遠隔地のような地域における教員の確保という課題を解決し、専門性を有する教員ができる限り対面に近い状況で授業を行うことを可能にすることであった。
2018年に文部科学省によって「遠隔教育の推進に向けた施策方針」が作成された際にも、遠隔教育が効果を発揮する前提として、教師と児童生徒、児童生徒同士の人間関係の基盤が成立していることが不可欠との考えが示されている。そのうえで、政府は2023年度までに全国の小中学生に一人一台の通信端末を配備する等の「GIGAスクール構想」を推進することで、教育現場におけるICT環境の整備および教員のICT活用指導力の向上を目指した。2019年度の補正予算ではGIGAスクール構想の実現に向けて2,318億円が計上されている。
GIGAスクール構想が目指すのは、一人一人に個別最適化され、習熟度などに応じて柔軟に学習を進められるようにすることで、各児童生徒の力を最大限引き出すことのできる教育の実現だ
1。そのために、(1)一人一台端末と大容量高速ネットワークのようなハード面の一体的な整備、(2)デジタルならではのコンテンツや学習活動といったソフト面の拡充、(3)日常的にICTを活用できる指導体制の構築
2、などの実施を図る。
しかし、遠隔教育を実施する現場では、ハード・ソフト両面において課題が山積している。「遠隔教育の推進に向けた施策方針」では、新型コロナウイルスの感染拡大以前においての遠隔教育の実施に際するハード面の課題として、(1)遠隔教育を行うためのICT環境の整備や体制の構築が不十分であること、(2)指導計画等の作成や教材の準備に多くの時間や手間がかかることなどが、ソフト面の課題として、(1)教師から児童生徒への適時・適切な指導や評価が困難であること、(2)不測の事態が生じた場合の迅速な対処が困難であること、などが挙げられている。
さらに、遠隔教育を実施するにあたっては、規制として、(1)受信側
3にも教員配置が必要である(文部科学省通知)、(2)原則出席扱いとならず、評価に反映されない(義務教育)、取得できる単位数に上限がある(高校、大学)(学校教育法施行規則等)、(3)教育を目的としていてもオンライン上での資料等の使用には著作権者からの個別許諾が必要である(旧著作権法
4)、等が設けられており、遠隔教育実施のハードルを高くしていた。
1 内閣府「第7回経済財政諮問会議(萩生田臨時委員提出資料)」(令和2年5月15日)
2 文部科学省「『児童生徒1人1台コンピュータ』の実現を見据えた施策パッケージ」(令和元年12月19日)
3 机間巡視や安全管理を行う観点から、授業を受ける児童生徒のいる受信側には原則教員を配置するべきとされている
4 旧著作権法第35条、なお改正著作権法は4月28日に施行されている。