全国知事会において、学年開始を9月にするという案が議論され、政府も前広に検討するとの見解とのことである。桜の咲く時期に卒業・入学したいといった感傷論は別として、どの法律・規定をどう変える必要があるのか、見てみよう。
現在の学年が4月1日から、翌3月31日までであるのを、9月1日から、翌8月31日までとするために何をどうすればよいか。
まず、小学校、中学校等の義務教育の学年を、4月1日から翌3月31日と定めているのは、学校教育法施行規則第59条である。施行規則なので、文部科学省の決定で変更が可能である。ただし、ここで注意しなければいけないのは、学校教育法第17条第1項で「保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う」。同第2項で「保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う」としている。
このように、学校教育法・同施行規則では、6歳になって初めて迎える学年が開始する日、すなわち4月1日に小学校等に入学すると定められている。年齢の数え方は民法の期間の定めが適用される(年齢計算に関する法律第2条)。民法では、初日算入、最終日不算入で計算する(民法第143条)。4月1日生まれの人は、3月31日の24時に6歳になる。そのため、早生まれは4月1日生まれの人まで含む。つまり入学時点や進学時点において、制度として、こどもたちの年齢はそろっている。
このような法令を前提とすれば、施行規則改正により、学年の開始を9月1日に変更した場合には、4月2日から9月1日生まれの人までは、上の学年に編入されることになってしまう。一部の生徒を一年飛ばして上の学年に編入するのは、あまり現実的とは言えないであろう。そうすると4月1日までに6歳になったこどもが、9月1日に小学校に入学するといった法律の改正が必要となりそうである。
しかしこのようにした場合には、来年の2021年9月に小学校に入学するのは、2014年4月2日から、2015年9月1日までの、1年5か月の間に産まれた児童となり、切替時期に生じる一過性の現象ではあるが、突出して人数の多い学年を産み出してしまうこととなる。そう考えると、このような改正を直ちに行うのは、児童・生徒に対する影響が大きすぎるように思う。
義務教育ではない高校や大学はどうか。法律では、たとえば、私立学校法第49条は会計年度が4月1日に開始し、3月31日に終わるとしているだけである。また、国立大学である法人に適用される独立行政法人通則法第36条は事業年度を4月1日から3月31日としている。
そして、学年は教育委員会の規則や学校の定める規則で定められている。たとえば東京都立の高校については、都の教育委員会の規則である「東京都公立学校の管理運営に関する規則」第4条で、第一学期が4月1日から8月31日(以下、第二~第四学期まで定められている)としている
1。また、大学では、独立行政法人東京大学では、東京大学学部通則第4条で、学年を4月1日から翌3月31日と定めている
2。したがって学年開始日の変更には法律の改正は不要である
3。しかしながら、会計年度や事業年度と、学年とが必ず一致しなければならないとはいえないものの、実務上は様々な支障が出てきそうではある。
鉄は熱いうちに打てといわれる。このような(不幸なものではあるが)機会でもなければ、グローバルスタンダードである9月入学制へ近づけるという、大きな変革は起こせないとの意見も傾聴に値する。しかし、9月1日学年開始への変更は、上述の通り、生徒に及ぼす影響が大きく、あまりにも問題が重い。まずは、緊急事態宣言解除後に、再感染のおそれがある中でどう教育を再開するかである。また、すでに長期にわたり、学校に通えていない児童・生徒へのケア、収入の減少・途絶した大学生等への支援を優先的に考えていくべきと考える。