新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言は、現時点(4月22日)で全国が適用地域となっている。営業停止要請の対象となった多くの事業者が都道府県からの要請に応えて、店舗閉鎖を行っているが、ごく少数とは思われるものの一部の事業者が従わないことが問題となっている。そのひとつが一部のパチンコ店であり、報道によると、行きつけの近所のパチンコ店が閉鎖したことにより、営業しているパチンコ店に人々が押し掛けている。諸方から人が集まることでクラスターの発生や感染拡散が懸念されている。
そこで、現在の法律でどこまでできるのかを、まず確認してみたい。緊急事態宣言が発出された都道府県の知事は、対象となる施設に対して営業停止要請をすることができる(特措法第45条第2項)。対象となる施設は施行令に定められているが、1000m
2以上のパチンコ店は運動競技施設として対象施設に該当する(施行令第11条第1項第9号にある対象施設。ただし施行令本則で1000m
2以上に限定)とされている
1。さらに、運動競技施設については厚生労働省告示第175号で1000m
2未満の施設も閉鎖要請の対象とされている
2。したがって、規模にかかわらずパチンコ店は営業停止要請の対象となる。
営業停止要請はあくまでも要請であるため、強制力はない。要請に応じなかった場合、どうなるのであろうか。その場合、都道府県知事は、新型コロナの「まん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる」(特措法第45条第3項)とされる。つまり、要請より強い、指示にすることができる。
また、要請や指示を行った場合は、遅滞なくその旨を公示しなければならない(特措法第45条第4項)。要請の段階では個別事業者名ではなく、業種名で公表されてきた。しかし、たとえば要請に従わない事業者に対して営業停止指示を発出した場合には、対象となった個別事業者名で公表することも考えられる。
一般には、このような手続きを経たうえで指示が行われ、かつ個別事業者名が公表されれば、十分にペナルティになると考えられる。
ただ、一部には、個別事業者名の公表は営業している事業者を宣伝するようなもので、逆効果になるとの指摘もある。そこで、たとえば、特措法の指示に従わない場合に過料や罰金
3を課したり、あるいは風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)の業務停止・許可取り消しなどができるであろうか。これらのペナルティを課すことは、まず、現行の特措法・風営法ではそのような規定がない以上、無理である。
それでは、立法論として考えてみるとどうであろうか。まず、風営法に特措法違反の場合も含めた業務停止・許可取り消しのような規定を入れるのは、どうか。これは風営法の立法目的(「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」(風営法第1条)すること)に照らして無理があるように思われる。また、特定業種にのみこのような規定を入れる理由付けも難しい。
そうすると特措法でペナルティを入れることを考えるべきこととなるが、これは、特定業種に限定されるのではなく、対象業種すべてに同様の規制を入れる必要がある。
ところで、外出自粛は移動の自由にかかる制限であることから、要請レベルでしか規定されていない
4。他方、営業停止については、経済の自由保障である営業の自由にかかる制限であり、公共の福祉による制限をより掛けやすいことから、要請よりも一段重い指示が出せるようになっている。そして、ここでの問題は、さらに指示違反に罰則を適用できる立法ができるかというものである。
確かに、要請に応じた誠実な事業者だけが不利益を被るというのでは、不平等であるとも考えられる。他方、営業停止要請に応じていない事業者からは、補償もないのに、停止を命令され、さらには過料あるいは罰金まで取られることには異議があるであろう。
結局、この点は、規制内容と守るべき法益とのバランスである。オーバーシュートが現状では起こっていないと評価されていると思うが、オーバーシュートが現に発生しつつあるような状況、言い換えれば国民に広く、その生命・身体に重大な悪影響を及ぼす強い懸念がある場合において、かつ、事業者が閉鎖指示を無視するなどのときには、指示にある程度の強制力(罰金など)を課すのもやむを得ないと思われる
5。この点は、事態が落ち着いてから、客観的に議論を行っていくべきと考える。